第6話 ドラゴンと魔法

「ちょっと、こんなに強いなんて聞いてないんだけど」

「私の魔力はもう、限界です」


 彼らのそばに近付いていくと、彼らがかなり焦っていることがわかる。森の方角に目をむけると、そこには巨大なドラゴンがそびえたっていた。物語の中で目にしたことがあるので、その大きさには戸惑ったが、それ以上の感情はわかない。


 真っ黒な身体に頭には大きな角が生えている。大きさは一軒家くらいあるだろうか。それに対して、男や女性たちが魔法を放っているようだが、鱗が固いのか、ダメージを与えられていないようだ。ドラゴンはなぜか、こちら側に攻撃することなく、ただ彼らの攻撃を黙って受け続けている。


(ああ、やっぱりここは異世界なんだなあ)


「ユメ、どうしてここに!家で待っていろと言っただろ!」


「だって、お兄ちゃんが心配だったから」


「お、お兄ちゃんって、お前まさか」


 男の今更過ぎる戸惑った反応に笑えてしまう。それにしても、どうしてこのドラゴンはこちらが攻撃しているのに、反撃をしてこないのだろう。


「はあ、仕方ないな。ユメ、お前、魔法は使えそうか?」


「ライ、なに言って」

「そうだよ、どう見ても、この子に魔法なんか扱えるわけ」


 男、私の兄らしき人物は私に真剣な表情で問いかけてくる。どうやら、この場は私の行動次第で状況が変わってくるようだ。魔法が使えないことなど、兄が一番よく知っているだろう。それでも、ここは異世界である。


「使えるんじゃないの。たぶん」


 普通なら使えないはずだが、何せ、私は謎の扉でこちらまで来たのだ。何か意味があって扉が現れたに違いない。もしそうだとしたら、今が私が呼ばれた理由なのかもしれない。


(とりあえず、ドラゴンと会話がしたいな。それが出来ないのなら、雷とかの一撃必殺の技が使えたら便利だな)


 ドラゴンを見上げると、私の視線と絡み合う。ドラゴンの瞳は爬虫類のような瞳孔となっていた。


『私はここから離れられない』 


 その時、頭に直接謎の声が流れ込む。辺りを見わたすが、私の周りには兄と深紅の髪の女性と銀髪の女性しか確認できない。そうなると、声の主はおのずと限られてくる。


「どうして?拘束されているようには見えないけど」


「ユメ、なにを言っている?」


『私の声が聞こえるようだな。それは無理だ。私はここに縛られてしまっている。最近、この世界にやってきたとかいう、ユウシャとやらと無理やり契約を結ばされてしまった』


「ふうん」


 ちらりと兄の顔を盗み見るが、兄はドラゴンと会話はできないようだ。女性二人に関しても同様で私が突然、独り言を言い出したように見えるのか、怪訝な顔をしている。ユウシャとやらは彼らではないようだ。


「おい、ユメ、危ないからそいつから離れろ!」


「ムリ」


 兄が心配しているのはわかるが、このままでは無駄な時間が続くだけだ。私は無意識にドラゴンのそばに近寄り、その身体に手を触れた。


 私の意識はそこで途切れた。

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