第4話 男に好意を寄せる女性たち

「ねえ、村の外でドラゴンが出たって!ライ、あんたにも討伐要請が来ているから急いできてちょうだい!」


 兄によく似た男と話していたら、突然、部屋をノックせずに女の人が二人入ってきた。私は驚いてとっさにベッドの布団の奥に潜り込む。


「まったく、部屋に入るときはノックしてからが常識だろう?ドラゴンがきたとか言っているけど、村の外って言ったって、出たのは森の奥だろう?」


「だ、だって、こういう時でないと、ライは私たちの相手をしてくれないでしょう?」

「そうそう、私たちがどんなに誘っても、ライは一緒に来てくれないでしょ」


 布団の中で、彼らの会話を盗み聞いていると、どうやら彼女たちは男の知り合いらしい。なんとなく、彼女たちは兄に似た男に好意を抱いているような感じだ。しかし、男は彼女たちを好きではなく、反対に嫌悪している気がした。言葉の端々にとげがある。反対に女性たちの声は甘ったるくて、兄に似ている男に媚びているということもあり、気分が悪かった。




「それで、そこのベッドには誰を隠しているのかしら?私たちのことを無視して、誰と仲良くしていたの?」


「それ、私も気になるー」


 布団にもぐって隠れていたものの、やはり不自然な布団の盛り上がりに気づかれてしまった。


「こいつは……」


「この人の、い、いもうと、です!」


 男が何を言い出すのかわからないため、とっさに私は布団から頭を出して先に自己紹介してしまった。兄に似ているというだけで兄ではないが、今はこういった方が正解な気がした。男は私の話に合わせてくれるようだ。慌てて私の言葉に頷いて話を補足する。


「そうそう、こいつは俺の妹。俺に会いに来たみたいで家まで連れてきた」


「ふうん、妹ねえ。妹なのに、ライとは似てないのね」

「そもそも、髪も瞳も真っ黒で、似ているどころか正反対なんだけど。それで兄妹とか言われてもありえないでしょ」


「それは……」


 痛いところをつかれて私と男は言葉に詰まる。しかし、その手の質問はこの世界に来る前から言われていたことだ。


 兄は髪色が茶色っぽく二重のぱっちりした瞳で色は白い。反対に私は真っ黒な髪に真っ黒な瞳。奥二重の浅黒い肌。身長だけは兄と同じで高め。そこくらいしか似ていない。


『はあ』


 女性二人は私が返事に詰まっているのを見て、あきらめたような溜息を吐く。


「まあいいわ。とりあえず、ドラゴンが村のはずれまで来ているのは確かだから。そいつらを討伐するためにライの力が必要なの。だから、その子をさっさと家に帰らせて、私たちと一緒に来てちょうだい」


 深紅の髪をポニーテールにした女性はベッドわきの椅子に座っていたライの腕をつかみ、椅子から立ち上がらせる。ライと呼ばれた男は嫌そうに女性の手を振り払う。


「わかったよ、行けばいいんだろ。行くのは構わないが、一つ言っておきたいことがある」


 男は女性二人をまっすぐ見つめて、思いがけないことを言い始める。


「俺は魔法で髪と瞳の色を変えている。だから髪や瞳の色だけで兄妹かどうか判断するな」


(魔法で色を変えている……) 


 どうやら、この世界では魔法という概念があるようだ。それだけでも驚きだが、それ以上に目の前の男が髪と瞳の色を変えているというのは驚きだ。ということは。


「魔法以前の問題でしょ。似ていない」


「ユメが傷ついているだろ。シルバー」


 兄かもしれない男と私が似ていないと言われてしまうと、元の世界の兄とのことを思い出して落ち込んでしまう。似ていないが、両親の遺伝子を色濃く受け継いでいるので、兄とは正真正銘、血のつながった姉弟である。両親は仲が良くて浮気など考えられない。


 男はそのまま部屋のドアの元まで歩いていく。似ていないとはっきり言葉にしたのは部屋にいたスカーレット以外のもう一人の女性である。私より身長が低く、長い白いローブを足首まで羽織っていて、銀髪を背中まで伸ばしていた。


「じゃあ、俺が帰るまでおとなしく休んでいろよ。帰ってきたら一緒に家に帰ろう」


 慌ただしく、男と女性二人は部屋を出ていった。



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