第7話 ごめんなさい

 リカは次々に村の人たちにお悔やみを言われ、そのたびにペコリと頭を下げた。

 どうやら喪主になったみたい。


「娘の夢子は水汲みに行ったまま帰ってこん」

「水汲みにどれだけ時間がかかっているのかえ」


 天神さんのおばさんと白髪交じりのおばさんが話している。


 川で会った女の子のことだ。あの子、夢子っていうんだ。

 うちのお祖母ちゃんも夢子って名前だ。


 リカはただ座っててお辞儀をすればいいだけ。でも、正座をしてると足が痺れてきた。

 お坊さんがお経をあげる間は、足も崩せない。最悪。

 だんだんお経が子守歌に聞こえてきて、躰が前後に揺れる。

 崩れ落ちる瞬間に、天神さんのおばさんが躰を支えてくれた。


 お爺ちゃんは丸い酒樽ようなものに入れられて、お墓まで運ばれた。


 今日は村の人たちが持って来てくれたご飯があったけど、明日からどうしたらいいのだろう。リカは途方に暮れた。

 線香の煙の立ち込める中、疲れた躰を横たえた。

 そうだ、お婆さんのおむつをかえなきゃ。

 躰を起こそうとしたが、そのまま意識を失った。




「リカ、リカ、目を醒ましたの。良かった」

「えっ、ママ?」

「もう、リカのバカ。湖に入るだなんて、ずっと意識がなかったのよ」


 帰って来たの?

 帰って来られたの?


「ママ、ごめんなさい。クソババアなんて言ってごめんなさい」

「生きていてくれたら、クソババアでも何でもいい」

「ママ-」


 リカは母親に抱きついていった。


「あら、あら、甘えん坊さんね」


 そう言いながら母の顔は綻んでいた。


「ママ」

「どうしたの?」

「お腹空いた」

「あら、そうね、リカずっと寝てたものね」


 クスクス笑いながら訊いた。


「何が食べたいの?」

「唐揚げ」

「先生がいいとおっしゃたら、ママ特製唐揚げ作ってあげる」

「うん、ママの唐揚げ美味しいものね。そうだ、今度作り方教えて」


 目を見張った母は、川に水汲みに来ていた夢子に似ていた。


「ママ、今度施設の夢子おばあちゃんに会いに行こう」

「あんなに嫌がっていたのに、おばあちゃん喜ぶわ」

「おばあちゃん、きっと1人で寂しいんだよ」


 川縁で1人花を摘む夢子の姿が蘇った。





        【了】





 

 



 

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【カクヨムコン参加作品】🏰こんなんじゃない! 王子様との婚約は? 宮殿はどこにあるの? 異世界に転移すると思ったらとんでもない所に来ちゃった。か、帰して、お家に帰して。 オカン🐷 @magarikado

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