なんもかえない


 何にも書けない。


 この時がやってきた。この物語を終わりに出来る機会。

「完結済」にしなかったことで起こった悲劇も、今回でなかったことになる。


 とタイプをし続けてみて、私は思った。

 なかったことにはならないだろ、と。


・一話だけで終わってた方が絶対すっきりしてた

・9000文字近く書くのにどれだけ時間がかかったと思ってるんだ

・このタイトルのせいで他の作品も進められなかった


 否定的なコメントばかりが立ち並んでいく。

 この試みは単なる悪ノリに過ぎなかったのだ。電信柱を犬みたいにグルグル回ってみたくて実際に回ってみたおじさんと同レベルなのだ。

 おじさんだって途中からは思っていたはずだ。「なんで俺はグルグル回ってるんだろう……」って。悲しいことに誰も見やしないから。


 でも私は思った。

 じゃあ当時、他にやることあったのか、と。


 あった。

 あったのだ。山ほど。


 ……戸棚にあった、いつ買ったのかもしれぬ氷砂糖を口に放り込んで、私はもしこの作品を書き終えて、それでまた「連載中」のまま放置したら面白いだろうな、と質の悪い想像をした。

 今度は100000文字を目指す。そしたら向こう一年はこれ以外は書けなくなるだろう。これ以外だったら何でもいいから書きたいのに、これしか書けない。何にも書けない。

 アイデアノートに出せないネタがどんどんと溜まっていくだろうか。それでもきっと自分の出したい作品のために全力を尽くすに違いない。

 で、今度は1000000文字を目指す。そしたら向こう十年はこれ以外は書けなくなるだろう。もはやライフワークだ。まったくやりたくないことをライフワークにさせられるというのは悲しい。「なんで?」と聞かれたら「さあ?」と返してしまうだろう。

 それでもその十年で、凝縮されたアイデアがノートに溜まっていくかもしれず、1000000文字も書いた経験のおかげで「大作にちゃんと落とし込める!」と自信を持つかもしれない。

 で、今度は10000000文字を目指す。私は筆を折る。


 馬鹿らしい想像だな……と思ったが、案外、タイトルや中身が違うだけで、私が今後やろうとしていることと似たようなものかもしれない。



 甘いものを食べたせいか、辛いものが食べたくなった。

 コンビニに向かって大盛りレトルトカレーを買う。今日は久しぶりにナンでも買おうかなと思った。ただの気まぐれだ。


 気まぐれか。

 仕事じゃエビデンスばっかり求めてんのに。

 そんなフラフラで大丈夫なのか。そんなのでずっと続けられるのか。

「【なんもかけん】で10000000文字書け。他のにうつつを抜かすことは許さん。これは天からの命令であり、お前の存在意義だ」と命じられたなら、気まぐれも起こさず、アイデアノートは無駄と破り捨て、きっと血眼になりながらも、書き続けるだろう。

 そして、電信柱をぐるぐると回り過ぎてノイローゼとなり、頭を打ちつけるおじさんに心から共感を抱くだろう……



 そんなぼんやりとしたif を浮かべながら、酒も合わせてレジへ向かう。

「Suicaで」と差し出した交通系ICカードはプー、プーという音とともに弾かれた。


 さよなら、ナン。

 

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なんもかけん 脳幹 まこと @ReviveSoul

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