なんもかかん


 何にも書けない。


 あらゆる情報がデジタル上に残っていくということは、今後あらゆる行為がデジタルタトゥーになる可能性があるということだ。


 私は学生時代、「GAME OVER -SIGN-」という作品案をA4ノートにまとめており、それを母が見て茶化したエピソードが脳内にこびりついて離れないのだが、その内容は母の記憶からは消えているだろうし、その禍々しさが広まることはない。

 今後はそうも言ってられない。バカッターもそうだが、こういった投稿サイトでも何がきっかけで遺恨が残るか分からない。

 仮に今後の作品が有名な賞に入るようなことがあっても、忘れた頃に「この人実はめちゃくちゃ悪趣味な作品書いてるんすよ」みたいな情報がやってくるかもしれないのだ。本当に「なんもかけん」かもしれない。


 良いことで評価されても、その「こと」の内容しか注目されないが、悪いことになると、いきなり「ひと」の批評が始まるのである。

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という格言があるが、上記の例で当てはめれば、こんな乱暴な感じになる。

 坊主が良いことした⇒袈裟が凄いんだろ!

 坊主が悪いことした⇒お前が悪い、袈裟にもその悪さが滲み出ている!


 全身にタトゥーが入って耳なし芳一みたいにならないことを祈りたい。



 デジタルの世界だったらアカウント消したり、非公開にすればいいのでは、という話はある。といっても、ある程度同じものを使い続けていると愛着もわいてくる。さっと消したりはしたくはない。

「時間をかけている」というのは物事の重みを表すのにポイントになると思われる。コピー・ペーストが可能なデジタルの世界で、その観点がどれだけ(自分の中だけならともかく周囲にとって)説得力があるかはまた別の話になる。


 デジタルとアナログが交わる現代。

 デジタルの世界で行われた――多くある交換可能なアカウントのうちの一つが犯した罪が、アナログにある唯一の命に傷をつけるというのは、SF的な雰囲気すら匂わせる。

 ただ、どうなのだろう。子供の一人が非行に走って周りのモノを壊して回ったので、その弁償を親がしているかのような雰囲気も感じられる。

 自分が子供役であり、親役でもあるという感覚――いや、子は自由に消せたり、交換出来たりなんかはしないのだから、適切な例えではないのだが、なんだか感情的というか、有機的だなと思う。


 人はまだデジタルの……無機的な部分に対するアナログの取るべき姿勢をちゃんと検討しきれていないように見える。実際の身体は腹も空くし、マウントだって取りたい。虫の居所が悪ければ気性も荒くなる。様々な出来事が精神的に揺さぶりをかけ、節度マナーを超えた行為に出るかもしれない。

 今後はデジタルネイティブが中心になるだろうから、ひょっとして、うまくなじむ未来もあるかもしれない。



……え、お前みたいな無名はそもそもデジタルタトゥーを刻む手間も惜しい?

 デジタルでもアナログでも「匿名(無名)」であることが(良くも悪くも)最大の防御壁になるのだろうなあ。

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