第15話 クッククク
海斗、浩輔、すず凪、あわ埜、本屋の意見がまとまったところで、いざ出発と行こうとしたが、誰か、もしくは全員の空腹音が鳴り響いて、全員が顔を見合わせた。
「クッククク。しょうがねえな」
海斗は片腕を天高く掲げると、召喚と低く呟いた。
白い本を癒す漬物の手だけじゃなくて、召喚までできるなんて。と、浩輔は衝撃を受けた。
(な、何を召喚するんだ?まさか、一角龍を召喚して、みんなを乗せて食べ物屋までひとっとびするつもりじゃ)
ごくり。
異様な空気が漂う中、浩輔、すず凪、あわ埜、本屋が固唾を飲んだ。
「クッククク。辛子高菜とちりめんじゃこの炒飯と甘めの味付けの黄色い沢庵五枚添えだ」
「「「「いただきます!」」」」
さすがは食堂のおばちゃんスタイルなだけはある。と、浩輔は思った。
まさか、冷蔵庫、台所一式、料理道具全般、椅子にテーブルが用意されている食堂風屋台を召喚するなんて。
しかも手際よく、ちゃちゃちゃっと料理を済ませて、料理道具も洗い済ませるなんて。
(でも、こんな色々揃っている屋台を召喚するなんて。疲労は相当溜まっているんじゃないか?)
「どうした?辛子高菜が辛くて口に合わなかったか?」
「いやいやいや。超うまいよ!ただ、海斗。疲れただろう。俺も畳の部屋が召喚できたらそこで横になってもらうんだけど」
「ああ。そうだな。疲れたから、すず凪に回復湿布をもらうっつーか。おい」
「何だ?」
「あれ」
「あれ?」
浩輔は向かいに座る海斗が指さす方を見るために、後ろを向いた時だった。
茅葺屋根、土壁、硝子がはめられていない竹格子の丸窓、屈んで入る引き戸の出入り口のある、五人が横になって眠れる大きさの茶室のような建物が出現していたのだ。
浩輔は前を向いて海斗を見た。
海斗は頷いた。
浩輔も頷いた。
海斗は黙々と炒飯と沢庵を食べ続けた。
炒飯を食べ終えた浩輔は、ぽりぽりぽりぽり沢庵を食べ続けた。
食べ終わってすぐに横になって眠ったら消化に悪い。
なら、横になるだけで眠らなければいい。
「「ごちそうさま。すず凪、あわ埜、本屋。少しあそこで休んでくる」」
食べ終えて少しして立ち上がり、シンク台に食器を置いた海斗と浩輔はすたりすたりと茶室へと向かうと、屈んで引き戸を開いて中に入って、いぐさの匂いにつられるように横になった。
眠りはしない。
眠りはしないよ身体に悪いから。
と、二人が思っていると、人が入って来る気配を察知。
一人、二人、三人と。
「私とあわ埜で二重結界を張っているから安全よ」
「休憩も大事」
「食べたら眠くなりますよ~っと」
「「眠ったら消化に悪い」」
そう言いながらも、いぐさの香りに解されて行き。
ついには、全員眠ってしまったのであった。
(((((起きたら出発)))))
「「「「「クッククク」」」」」
(2023.5.31)
クッククク~白紙の本に込めよ天船~ 藤泉都理 @fujitori
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