【4-34】 ラヴァーダが造りあげた城にラヴァーダが育てあげた兵をぶつけたら

【第4章 登場人物】

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「先代ドネガルの忠義が、ブレギアを滅ぼすいとぐちになろうとは、皮肉なことではないか」


 セラ=レイスは、アリアク城塞郊外の下宿先でロッキングチェアに身を預けていた。レモンを浮かべた温かいティーカップ――それを両の手で包みながら。


 帝国宰相の息女の陣営に所属して間もないが、もう何度目かの大仕事を彼はやってのけた。


 何しろ、このブレギア国境地区 最重要拠点の城主を懐柔のうえ、寝返らせることに成功したのである。


 かつ、城主の叔父たち――城塞の頭脳であり良心――を始末することもできたのだ。


 そこまでやり遂げた彼だが、出世を望むこともなく、恩賞を求めることもなく、今度こそ休暇だと決め込んでいる。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編 第4章追記

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16818093075431061948




 コナリイ陣営において、レイスが初めに任されたのは、砲兵を中心とした各隊の再編指南であった。


【2-10】 黒髪の先任参謀と紅髪の軍政監督

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 次いで、膨大な数の船舶と石炭の収集(第5章にて詳述)においても、彼はその手腕を発揮する。だが、それら商談がまとまるや、ひと足早く大海・アロードを東へ渡る羽目になった。


 各隊再編の折、並行して提案していた企てが認可されたためである。


 元々承認されるわけがないと思い込んでいたものだが、女児准将閣下はそれを裁可したばかりか、手厚い予算まで付けてくれた。


 この策が決まれば、10万の兵馬の存在にも勝りましょう、と。


【2-9】 お金は大事

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 おまけに、少女コナリイは、実行役に提案者レイスを任命したのである――立案した以上、最後まで責任をもってやり遂げてみせなさい、ということなのだろう。


【4-3】 ぐーたら参謀の新婚生活? 下

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 その企てこそが、この度形となったアリアク城塞の叛乱である。


 ドネガル一族で最も欲深く、レオン新体制に最も不満を抱いていた新城主――それに取り入り、見事に故国に対し反旗を翻させた。


 ブレギアの玄関が、帝国軍に向けて門を開いたわけで。


 確かに、攻略すべき敵の領土に橋頭堡を築くという、「10万の援軍にも勝る」事態となりえたわけである。


 だが、帝国本土を東奔西走した直後に、敵国に忍び込んでの離間工作――超過勤務というヤツだろう。この紅髪の青年が最も忌避する言葉だ。



 隠れ家に住まい、調略に暗殺という陰湿な任務を達成したレイスは、心底辟易へきえきしている様子だった。


 しかし、そのみどり色の瞳に、好奇心に満ちた色をほんのりうかべる。


「ラヴァーダが造りあげた城に……」

 紅毛の青年は、サイドテーブルにティーカップを置いたことで暇になった両手を動かす。


「……ラヴァーダが育てあげた兵をぶつけたら、どうなるか」

 彼はそのまま左手のてのひらに、右手のこぶしをぶつけた。




「まだ確実にことになったわけではありません」

 上官の気分に水を差すような言い方をしたのは、キイルタ=トラフであった。


 ドネガル家先代当主の弟たちを馬車ごと手にかけた彼女は、淡々と紅茶を給仕している。数多の戦場で命の奪い合いを経験してきたことに比べれば、闇討ちなど動じるに値しないのだ。



 部隊再編はともかく、船舶集めに石炭集めに敵将調略――レイス隊が、コナリイ麾下で担当してきたのは、先任参謀として大軍を動かすような花形任務ではなかった。


 東部方面征討軍での活躍を認められた上での首都・ターラはコナリイ帷幄いあくへの栄転であったはず――隊長本人はともかく、ゴウラ、カムハル、レクレナ等、彼の部下たちは少なからず自負していた。


 それだけに、新天地での任務は心外なものばかりであったと言えよう。


 しかし、不平を鳴らす暇もなく、隊長と部下たちとは引き離されてしまった。


 船舶・石炭、双方確保の目途がつくと、残務を子飼いの者たちに任せ、レイスはコナリイ派の下士官・兵卒とともに、草原西はずれの城塞都市へ送り込まれたのだった。そこへは副長・トラフしか帯同を許されなかった。


 ところが、紅毛の隊長は、異国での借家暮らしを楽しんでいるようにすら見える。それがトラフには物足りない。



 トラフは小さく吐息すると、ティーポットへお湯を注ごうと立ち上がった。蒼みがかった黒髪を揺らして。


 そんな彼女へ、レイスは問う。


「ところで、ドネガル家のもう1人はどうした」


前要塞司令の弟クイルは、前要塞司令の妻ボアヌが地下室に閉じ込めました」


 たまたま物資の在庫確認に追われ、馬車に乗りそびれたことで難を逃れたドネガル兄弟の次兄――彼は、あによめの手によって、そのまま地下倉庫に拘禁されたらしい。


 始末しますか?と灰色の瞳を細める部下に、上官はかぶりを振った。自信と愛嬌をないまぜた笑みを浮かべて。


 そんなことよりも、と言わんばかりに、紅毛の青年は副官にティーカップを差し出した。



「仕上げを頼む」






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


アリアク城塞に謀反――自陣に成り駒を許したブレギア国が、どう出るか気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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の乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「疑念は確信へ」お楽しみに。


「これまで、このブレギア国に尽くしてこられたドネガル御一門が謀反など、何かの間違いとしか考えられません」

珍しく、寡黙な宿将・エヘ=ボルハンが発言の口火を切った。



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