【2-9】 お金は大事

【第2章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330664586673465

【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277

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 少女コナリイは、紅髪の新参者セラ=レイス中佐を追い回した。少しでも多く学ぶべく、少しでも多く自軍に資する助言を引き出すべく。


【2-5】 おにごっこ 上

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【2-6】 おにごっこ 下

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【2-7】 かくれんぼ

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 だから、彼女はただ付きまとうばかりではなかった。聞き入れるべき意見は、積極的に採用していった。


 驚くべきことに、この女児准将は自軍について、貴族たちの愛する騎兵をあっさりと減らし、砲兵中心の編成に改めてしまったのである。



「だいじょうぶ!お金の算段はつけるから、セラ=レイスが良いと思う野砲のリストを急ぎ用意して」


「か……しこまりました」


 にこにこと微笑む金髪の准将を前に、狼狽ろうばいを隠しきれない紅髪の中佐――コナリイの言動をレイスは俄かに信じかねているのだろう。


 あおい瞳を紅く長いまつ毛がしばたたいている。青年が全力で困惑している姿を前にすると、少女はくすりと笑ってしまう。


 これまで、固定観念のかたまりのような貴族たちを相手にしてきたが、「善処しよう」と言われれば御の字、下手をすれば罵声や鉄拳を見舞われてきたのはずだ。


 そのため、コナリイによる「快諾」の乱発が、現実味をもってレイスの耳に染み込んで行かないのだろう。


「戦場での実践は、百冊の書物に勝ると思うの。セラ=レイス……あなたのおかげで、砲兵の有用性に異論を差しはさむ余地はなくなりました」


「……恐縮です」

 紅毛の青年将校は、なかなか疑心暗鬼のふちから抜け出せないようだ。


 その心情を霧散させようと、金髪の少女は意気揚々と華奢きゃしゃな腕を組んだ。




 コナリイの柔軟さは、砲兵重視の兵制転換だけではなかった。


「例の件も許可します。人選を進めておくように」

 青年が新たに具申した企てについても、少女は有効であると判断した。


 すると同時に、ここでも予算・人員を割くのであった。


「いろいろと入り用でしょ」

 少女は体型こそ華奢ながら、財布については太っ腹であるよう心掛けている。


 紅髪の青年がこれまで従ってきた貴族将軍は、往々にして吝嗇家ケチであったそうだ。


 彼らは、広大な自領を切り盛りすることやを整えることに追われていた。純粋な軍事に回す予算など二の次、それに付随する作戦行動など三の次にされるのが常である。


 ところがコナリイは献策を承諾したばかりか、それに伴う必要経費を上乗せするというのだ。あまりの羽振りの良さに、青年の冷徹な腹心・キイルタ=トラフ中尉も驚きの表情を禁じ得ないでいる。



 もっとも、コナリイとしても、油断すれば本音が漏れそうになる。

 ――どーして大砲ってこんなに高いのかしら。


 でも、すんでのところで、小さな口を強く結ぶ。


 レイスが演出した海の向こうの戦場では、新たな時代が生まれつつあった。


 領内からいただいてきた税収、父宰相から下賜された支度金等、これまで貯蓄してきた軍資金の使い時は、いましかない――少女は自身に言い聞かせた。



 それに、彼から提案された計略は、聴き入るに値するものだった。


 これも、少女麾下の人材では到底思いつかない代物であった。この策が決まれば、10万の兵馬の存在にも勝るだろう。


 ――あ、でも。

 コナリイは水色の瞳を細めて、出納帳に見入った。ちょっと出費がかさんできたかな、と。



 桁が3つ多い砲弾の単価のせいで、少女の金銭感覚は少し狂っていたのかもしれない。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスはとても良い上司の下につくことができたな、と思われた方、

コナリイのお金の使い方に「いまでしょ」という言葉(死語?)を思い浮かべられた方、

🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


コナリイたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「黒髪の先任参謀と紅髪の軍政監督」お楽しみに。


金髪の少女の左右に、黒髪・赤髪の青年あり。


コナリイ=オーラムは、先任参謀にファーディア=モイル中佐を据えている。兵馬の進退など作戦行動のかなめには、少女の傅役もりやくが一任されていたわけである。


この傅役は優秀だった。兵馬の進退など彼に任せておけば、少女はお菓子を食べていても大丈夫だと思っている。



コナリイは、軍政監督にセラ=レイス中佐をいきなり据えてしまった。各隊の編成など組織構築の要には、東岸領からの新参者が一任されたわけである。


紅毛の中佐は「戦争」という一局面ではなく、その先を見つめているようだ。周囲よりも頭1つ高い分だけ遠くを。

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