【2-5】 おにごっこ 上

【第2章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330664586673465

【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277

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「セラ=レイス、またごはんに誘ってもいい?」


 その機会はすぐにやってきた。2週間後、レイスは再びコナリイ=オーラムによって、ランチに呼び出されたのであった。


 話題は先週と同じく、ヴァナヘイム戦役についてである。


「射程のことなる野砲の運用には、どう気をつければいいの?」


 レイスは「おや」と思った。質問が先週のものよりも専門性を帯び始めていたからである。少女なりに勉強しているようである。


 隣で規則正しくスープを口に運んでいる男にあおい視線を移す。しかし、質問には金髪少女の熱意がこもっており、この七三眼鏡がけしかけているようにも思えなかった。


 レイスは、片手で肩の凝りをほぐし、吐息を漏らす。そして、かみくだいて回答していった。


 ――カチリ?

 耳慣れぬ物音に、紅髪の青年は首をかしげる。


 それは、コナリイのが入った音だった。




 は、連日に及んだ。


 昼休みだけにとどまらず、カフェタイム、ディナータイム、ひいては非番の際にも呼び出されるようになると、さすがのレイスも閉口した。


 彼は、上官にびを売って、立身出世を図るような処世術は持ち合わせない。皇族や上級貴族にはべり、語りになるつもりはないのだ。



 そこで、レイスが採ったのは、だった。


 紅髪の青年たちの執務室に、呼び出しの電話や使いが来る前に、彼は理由を付け、外出を決め込んだ。


 ところが、コナリイの方が一枚上手であった。帝都生活においては、少女の方に一日の長がある。


「セラ=レイス、おつかれさま」

「セラ=レイス、一緒にご飯たべよ?」

「セラ=レイス、ハンバーグは好き?」


 のカフェやバルをいくら変えても、金髪少女は七三眼鏡を従えて、必ずそこに現れるのである。



「ご注文のパンケーキをお持ちしました♡」

「……負けました」


 4度目に捕まった茶店では、准将閣下自らが生菓子スイーツを運んできたことにより、レイスは投了とうりょうした。


 給仕服にエプロンを着込み、髪飾りまで付けて現れた相手から、とても逃げ切れないと降参したのだった。


 紅色の頭をがっくりと落とした彼の前に、皿が提供される。コナリイのお店ごっこはまだ続いているようだ。

「めしあがれ♡」

「……」


 盛り付けも童女閣下 御自らが行ったと思われる――せっかくのサワークリームもべちゃべちゃに崩れていた。


 紅毛の青年が観念すると、七三眼鏡は店を貸し切りにし、手早く護衛を配置する。こうして、打ち合わせ(問答?)場所が、准将執務室から、カフェへと変更になるだけであった。


 ――ってか、お前も着ていたんかい。

 斜め向かいに腰掛けた七三眼鏡を前に、レイスは嘆息する。



 ファーディア=モイルは、黒蝶ネクタイの給仕服が板に付いていた。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。

レイスとコナリイのおにごっこ(七三眼鏡のモイルもまんざらでもない?)を楽しんでいただけた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


コナリイたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「かくれんぼ 下」お楽しみに。

童女准将とぐーたら中佐が知恵比べ――後半戦です。


「なるほど、ガキをくには娼館に限るか」

セラ=レイスは、この日こそは、童女閣下から完全に逃げ切ろうと知恵を絞っている。


「って……まだ真っ昼間ですよ!?」

ゴウラは、己が口をした冗談を、紅毛の上官が真に受けるとは思わなかった。


傍らの副長・キイルタ=トラフ中尉の冷ややかな視線は、相手を射殺すほどの鋭さを帯びている。

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