【2-10】 黒髪の先任参謀と紅髪の軍政監督
【第2章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330664586673465
【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277
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金髪の少女の左右に、黒髪・紅髪の青年あり。
コナリイ=オーラムは、先任参謀にファーディア=モイル中佐を据えている。兵馬の進退など作戦行動の
コナリイは、この世話係 兼 教育係に全幅の信頼を置いていた。そうした期待に応えるかのように、彼女麾下の合同大演習において、彼は見事な采配を振るってみせた。
モイルは、漆黒の髪を七三に分け、縁なし眼鏡をかけた伊達男であった。
23歳という若さでありながら、妙に落ち着き払っていた。彼が着座瞑目すると、周囲の空気まで
この傅役は優秀だった。兵馬の進退など彼に任せておけば、少女はお菓子を食べていても大丈夫だと思っている。
諸将もモイルには一目を置いている。秀麗寡黙な彼の指示に、各隊が進んで従う信頼関係――それが、コナリイ軍団の強さの秘訣となっていた。
だが、少女は自軍に物足りなさを感じていた。
特に前年、オーラム家に背いた貴族領主を討伐した折、それは確信に変わった。3,000の相手に、5万の戦力で挑みながら、その平定に半年近い年月を要してしまったのだ。
反乱軍はしつこかった。
その理由は、討滅後に判明する。捕縛した敵の幹部が吐露したからである――
同大将は兄・アルイル公の傅役として知らぬ者はいない。権謀術数を駆使し、権力掌握・領土支配を盤石なものにしてきた。
どうりで、公称3,000の戦力にしては、奇襲に待伏せが飽きることなく繰り返されわけだと、コナリイは合点がいった。考えてみれば、田舎兵にしては、小銃装備が整い過ぎていたではないか。
反乱鎮圧後、コナリイ一派は帝都憲兵本部へ訴え出たが、ブリクリウ一派に知らぬ存ぜぬを決め込まれ、うやむやになっている。
ライリー、ケルナッハ、ケフト――コナリイ軍団のみんなは、よくやってくれた(ダーモットはあと一歩……)。
とりわけ、ファディの用兵には光るものがあった。だが、最後の決め手に欠いた。
寄せ切るのに、持ち駒の種類が足りなかったのだ。
コナリイは、軍政監督にセラ=レイス中佐をいきなり据えてしまった。各隊の編成など組織構築の要には、東岸領からの新参者が一任されたわけである。
少女直下の手勢を皮切りに、コナリイ軍団は実戦を意識した編成に生まれ変わっていく。
レイスは、紅毛とのっぽが特徴の青年であった。
彼は自然体だ――27歳になりながら、隊務中も居眠りばかりしている。
頭の中では様々な知識と思考がワルツを踊っているようだが、それをひけらかすことはない。
少女自身も自然体でありたいと思っていた。しかし、立場や外聞を気にして、睡魔やサボり魔と仲良しこよしにはなれなかった。
紅毛の中佐は「戦争」という一局面ではなく、その先を見つめているようだ。周囲よりも頭1つ高い分だけ遠くを。
彼と話をしていると、それがひしひしと伝わってくる。少女が抱える人材のなかにはないタイプであった。
彼とのやり取りは、コナリイの知的探求心にとって、すこぶる心地の良いものだった。
レイスは、軍政面で進むべき道を示してくれた。
帝国中の軍団を視察し、たくさんの書物を手に取り、そこに思考を重ねても、取っ掛かりすら掴めなかった自軍の編成――それを理想のものに生まれ変わらせてくれた。しかも、わずかな期間で。
だが、この男をいち編成担当で終わらせては、父宰相は呆れ果てることだろう。そんなことだけのために、人事権を
それゆえに、申し出のあった特殊任務もコナリイは二つ返事で承諾した。
――紅髪の青年の高みに自分も立ちたい。
いつしか金髪の少女も、そう願うようになっていた。
金髪の少女は、この紅髪の青年を気に入ってしまった。
朝昼晩と問わず、レイスを追い回した。彼が食卓に着かねば、少女もナイフとフォークを手に取らないまでになった。
少女の世話役――黒髪の先任参謀は、感情を表に出すことはなく、赤髪の軍政監督の捕獲に尽力するのだった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
黒髪・赤髪の両青年がどうコナリイを支えていくのか、期待いただける方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
コナリイたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「少女指揮官と女副長」お楽しみに。
この日もレイスの行方は分からなかった。
捕物を断念した主従に、トラフはお茶を振る舞う。だが、彼女は表情に乏しく会話は膨らまない。
従うファディも通常運転――口を開くことはなかった。
コナリイも沈黙を余儀なくされる。
「……」
「……」
「……」
室内は、静まり返った。時折、お茶をすする音だけが響く。
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