【2-11】 少女指揮官と女副長

【第2章 登場人物】

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【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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 コナリイ=オーラムは、帝都のあちこちで紅毛の部下をしてきた。


 時には進路を先読みして待ち伏せし、時には潜伏先をあぶりだす――捕獲劇は、少女にとってそれはもう、刺激に満ちたものであった。


 七三眼鏡の傅役もりやくによる知恵は、捕物とりものの際、大いに少女をたすけている。


 何より、レイス陣営において、を得られたことが大きかった。蒼みがかった黒髪の女性副官からもたらされる情報は、適時適切であった。



 的確情報の知恵分析のおかげで、潜伏先に先回りして、お店屋さんごっこに興じることも出来た。


 コナリイは、ウェイトレスに変身出来たことも嬉しかった。だが、その自分にぎりぎりまで気が付かないセラ=レイス――ダーモットにいたずらする時よりもハラハラ、ドキドキしたものだ。


【2-5】 おにごっこ 上

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 でもコナリイ主従だって、空振りすることはある。


 セラ=レイスは、根っからのサボり癖を持つ。執務室で大人しく仕事をしている方がまれなのだ。


 潜伏先もとい、サボる場所もバラエティに富んだ。彼の副官はおろか、少女の傅役でもカバーし切れぬほどに。



 空振りに終わったコナリイに、お茶をれてもてなすのは、レイスの副官――キイルタ=トラフの役目だった。


 副官は美しく隙の無い女性だった。中尉を示す襟元をキチンと締め、蒼みがかった黒髪をキチリとまとめ上げていた。おまけに、灰色の双眸そうぼうは鋭い。


 近寄りにくい空気をまとっている女性副官が、少女はちょっぴり苦手であった。でも、彼女に漂うほのかに甘い香りには、ホッとするのだった。


第1部【プレイバック?⑤】アシイン=ゴウラの小休止

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 この日もレイスの行方は分からなかった。


 捕物を断念した主従に、トラフはお茶を振る舞う。だが、彼女は表情に乏しく会話は膨らまない。


 従うファディも通常運転――口を開くことはなかった。


 コナリイも沈黙を余儀なくされる。


「……」

「……」

「……」


 室内は、静まり返った。時折、お茶をすする音だけが響く。まるで葬式のようだ。


 副官と傅役によって、室温が5℃くらい落ちたように少女は感じる。温かい紅茶がおなかにしみわたる。


 何か話題を――先日のイーストコノート大陸では、ヴァーガル河流域で帝国軍がコテンパンにやられたそうね――そんな話を切り出したものだから、いよいよ室内は凍り付く。


 コナリイは内心で金色の頭をブンブン振る。


【1-36】 戦いの終わり

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「そ、そろそろ、おいとましようかしら」

 はやく帰ろ、と少女はカップをソーサに戻す。


 だが、これで3日続けての空振りだ。ほどなくして紅毛の将校の成分(?)を摂取しないと、知的欲求に禁断症状が出てきてしまう。


 もう少し待ってみようかな――その時、コナリイは以前耳にしたことをふと思い出した。副官の彼女は、セラ=レイスの幼馴染だということを。


 試みに、少年時代の彼について尋ねてみると――。


 

 ――カチリ?

 という妙な音を少女は知覚した、気がする。



 副官のスイッチが入ったようだ。


 せきを切ったように、出て来るわ出て来るわ、幼き日々のエピソードが。


 暇さえあれば寝ていた(いまもだろ)、甘いお菓子が大好き、ごくたまに優しい言葉をかけてくれる、でもお菓子は分けてくれない、珈琲はブラックで飲めない、心霊現象オバケが苦手、歌が下手くそ、15歳頃から突然背が伸びた、あおい眼が素敵、声も悪くない、士官学校ではずっと主席だった、学校の下駄箱にはラブレターで埋まっていた、悪い虫がすぐにつくから油断ならない、などなどなど。


 ――セ、セラ=レイスのお話ばっかりね。

 紅毛の将校の少年時代をまとめてぶつけられ、コナリイは水色の大きな瞳をしばたたくばかりだ。


 いつ終わるとも知らない副官の昔話に、たまらず少女は七三眼鏡ファディの横顔に救いを求める。


 黒髪の青年は、いつものように無表情のまま、いつも以上に硬直していた。でも心なしか、ほほが紅潮しているように見える。


 ――また、カチリ?

 同じような音を少女は再び知覚した、気がする。




 「トラフ中尉、素敵です……」


 七三眼鏡の青年が漏らした言葉は、かろうじてコナリイは聴き取ることができた。



 ――ファディッ!?あなた、まさか。


 少女の水色の瞳が見開かれた。この日一番大きく。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。

ファディの恋心のスイッチオンに驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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コナリイたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「コナリイとその部下たち 上」お楽しみに。


「みんな、こわい顔をしてどうしたの?」


同ビル最上階――3階・准将執務室では、主人の前に配下たちが顔を並べていた。


不満を抱きながらも第一声を発するには戸惑うらしい。


同僚たちのそうした様子を察して、年長者のサミュエル=ライリー大佐が口火を切る。誠に申し上げにくきことですが、と前置きのうえ。


「あの男は、兄君・アルイル公の……東海岸側の人間ですぞ」

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