【2-12】 コナリイとその部下たち 上

【第2章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330664586673465

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 帝国首都・ターラの一角を、陸軍省関連の施設群が占めていた。


 それらのなかに、一風変わった煉瓦造りの建物がある。この可愛らしい建造物は、所有者名を由来とする通称で親しまれている――コナリイビル、と。



「みんな、こわい顔をしてどうしたの?」


 同ビル最上階――3階・准将執務室では、主人の前に配下たちが顔を並べていた。


 帝国暦384年の秋も深まりつつあるが、武断派の男たちが集うとやや暑苦しいものを感じる。


 戦場では怖いもの知らずの彼等も、愛くるしい上官に第一声を発するには戸惑うらしい。


 同僚たちのそうした様子を察して、年長者のサミュエル=ライリー大佐が口火を切る。誠に申し上げにくきことですが、と前置きのうえ。

「あの男は、兄君・アルイル公の……東海岸側の人間ですぞ」


 コナル=ケルナッハ中佐、ギャリー=ケフト中佐が続く。


「さよう。遠くない将来、あの紅髪はアルイル公の帷幄いあくに戻ってしまうことでしょう」


「そのような者に、重砲火器の調達のみならず、部隊再編まで任せては、我らの戦力が東海岸側に筒抜けとなります」


「……」

 でも、イアン=ダーモット少佐は続かない。


 隊随一の好男児イケメンであり、少女によるイタズラ被害者1号は、この日も困ったように微笑むばかりであった。もともと下がり気味の両目尻の上で、眉毛もハの字を描いている。



 執務用デスクを挟んで、革張りの椅子にと座る金髪の少女は、部下たちの用向きを理解した。


 彼等――ダーモットを除く3名は、主人自分意見具申忠告しに来たのであった。兄君に通じている新参者――セラ=レイス中佐などに、軍政監督を任せる危険性について。



 大海アロードを挟んで、兄妹両派閥はにらみ合う構図である。


 兄・アルイルとその一派は、帝国東岸領――イーストコノート大陸の西側沿岸部――に圧倒的な所領を保有していた。


 妹・コナリイとその一派は、帝国本土――ミイス大陸――の片隅に地位相応の所領しか保有していなかった。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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 帝国宰相の兄妹両派の対立――それは、日に日に深刻化している。


 前年、コナリイ一派が平定したミイス大陸での反乱騒動でも、賊側にターン=ブリクリウ大将――アルイルの傅役もりやくの息がかかっていた。


【2-10】 黒髪の先任参謀と紅髪の軍政監督

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 沈痛な配下たちの様子とはあべこべに、コナリイは屈託のない笑みを絶やさぬようにして、口を開く。

「実は、大砲の購入や砲兵の編成だけではなく、その訓練指導まで彼に任せようと思っているの。ファディの兵・砲進退も、セラ=レイスの理論にもとづいて練り直しているわ」


 言葉とともに鋭さを増していた配下たちの舌鋒ぜっぽうは、若き主人の無邪気な笑顔にいなされることとなった。


 だが、コナリイの本領発揮は、これからだった。それだけじゃないのてへへ、ぺろの前振りももどかしく、「実は――」と発せられた少女の言葉に、配下たちは全員が素っ頓狂すっとんきょうな声を上げる。


「「「な、なんですとぉーーッ!?」」」


 ような形となったライリー・ケルナッハ・ケフトは、慌てて体勢を整えると、口々に異を唱え始める。


「な、な、なんと!?」

「我等に課されている3号作戦の全容まで!?」

「そこまで手の内を明かすと、本気でおっしゃられているのですか!?」


 内々に命じられ、水面下で準備を進めている極秘作戦にまで、女児准将閣下が紅髪の新参者に披露しようとしている――ライリーたちはいよいよ、収まりがつきそうにない。



「だって、敵が分からないと、準備も進まないでしょ」

 だが、コナリイの説明は、部下たちの耳に届いていないようだ。


 そんなことをしたら、こちらの機密事項が、兄君陣営へいよいよ筒抜けになる――青年将校たちは額を集めている。


「……ファディ、どうしよう」

 少女は背後へ――侍立する七三眼鏡へ視線を送る。ファーディア=モイル中佐の縁なし眼鏡は、沸騰する同僚たちなど興味がなさそうに、明後日の方向を眺めていた。


 彼は、渦中の人物の副官と紅茶を飲んで以来、ますます何を考えているのか、分からなくなっている。


【2-7】 少女指揮官と女副長

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「……」

 コナリイは正面に向き直る。


 将校たちも姿勢を正した。上官の前であったことを思い出したようだ。



 金髪の少女は、ゆっくりと両目をつむり、口を開く。



「……大丈夫。兄上たちは、彼を重用していない」






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


部下たちの気持ちが分かる方、コナリイの意図が気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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コナリイたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「コナリイとその部下たち 下 《第2章 終》」お楽しみに。

コナリイが活躍(?)した第2章も最終話となります。


コナリイは、「戦闘の詳細」や「砲兵の有効活用」を知りたいがためだけに、彼に再三再四、ヴァナヘイム戦役の顛末てんまつを請うていたのではなかった。


彼女はそこから、兄陣営の兵馬練度、兵装水準、それに将校どうしの関係性まで汲み取っていたのである。


紅毛の将校の実体験から得られた情報と、麾下の諜報担当が得ていた不確かな情報とを付き合わせるという、器用なこともこなしていた。

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