【2-13】 コナリイとその部下たち 下 《第2章 終》

【第2章 登場人物】

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「……大丈夫。兄上たちは、彼を重用していない」



 新入りの長身将校が紅髪をかきつつ逃げまわるのを、少女准将が淡い金髪を揺らして追いまわしてきた。


 そのことは、ライリーたちも知っている。


 だが、その意図について、彼等は初めて耳にする。


 コナリイは、「戦闘の詳細」や「砲兵の有効活用」を知りたいがためだけに、彼に再三再四、ヴァナヘイム戦役の顛末てんまつを請うていたのではなかった。


 彼女はそこから、兄陣営の兵馬練度、兵装水準、それに将校どうしの関係性までみ取っていたのである。


 紅毛の将校の実体験から得られた情報と、麾下の諜報担当が得ていた不確かな情報とを付き合わせるという、器用なこともこなしていた。



 少女の見立てによれば、セラ=レイスは兄の帷幕いばくで重用などされていない。


 家格を敬わないばかりか、帝国の伝統を無視した彼の突飛な発想に、兄の重臣たちはいまいましさを抑えきれずにいたようだ(兄個人だけは、そうでもなさそうだったが)。


【11-19】無心 下 第11章終

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 その昔、陸軍士官学校の図上演習で、砲兵をもって騎兵を叩きのめしたとされる紅髪の学生は、幼年学校でも語り草になっている。


第1部【9-21】学園生活 ⑦ 図上演習

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 コナリイは自軍の設立と共に、出席日数が追いついていなかったものの、その分、家庭教師と独学で成績を維持していた。


 そんなである少女の耳にも噂が届くほど、当時のレイス生徒による古格否定戦法は、教官方を激怒させたそうだ。


 もっとも、兄の重臣や教官方の反応こそ、自然だといえる。セラ=レイスの着眼点や工夫は、常識や既得権などに根差していないのだから。



 驚いたことに、重臣や教官に飽きたらず、彼は東都の黒狐・ターン=ブリクリウに正面から盾突いているという。帝国東岸領最大の権力者を相手にやり合おうとは、命知らずにも程がある。


第1部【3-1】査問 ①

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 旧習を否定しながらも、既存権力におもねらず、戦果を挙げては昇進していく生意気な若造――紅髪の青年は、アルイル陣営において度し難い存在になっていたようだ。


 この異端児が中央勤務となり、東岸領からいなくなったことで、といったところかしら――コナリイは、調べ上げた事情と自身の見解を述べ終えた。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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「……」

「……」

「……」

「……」


 幼い上官のな一面に接したのは、初めてのことではなかろうか。部下たちは一斉に言葉を失う。


 いつまでも、あどけない女児だと思って接してきたが、この娘も権謀術数に長けたオーラム家の一族なのだ。



 将兵からの信望においては、ライリーがまさろう。

 戦場での武勇においては、ケルナッハやケフトが優ろう。

 剣技においては、ダーモットが優ろう(他はダメダメだが)。

 兵馬進退においては、モイルが優ろう。


 だが、機略において、従来の発想を覆すひらめきは、誰も持ち合わせていない。セラ=レイスという男の面白さはそこにある。



 コナリイは、その水色の瞳で配下1人1人を見据えながら続ける。



 この先、アルイル兄上派閥との衝突は不可避であろう。


 だが、我らの所領は小さく、得られる税収に乏しく、養う兵馬に欠く。


 圧倒的に劣勢なコナリイ派閥われわれが、強大な兄陣営とわたり合うには、政戦両面において、彼のような柔軟な発想でのやり繰りに頼るしかない。一見、邪道かもしれないが。


 兄陣営と同じように、従来のやり方にこだわっていては、ジリ貧となるばかりである。もっとも、帝国史を振り返ってみても、邪道も行き渡れば正道となりうるだろう。


 何より、父宰相・ネムグラン=オーラム元帥が、愛娘の陣営の力を削ぐような人物を送り込んでくるはずがない。



 少女による最後の一言は、部下たちに説得力をもって受け止められた。自分たち上官に対する帝国宰相の溺愛ぶりは、こそばゆくなるほどだから。


 程度の差こそあれ、これまで、己の上官を女児とあなどっていたライリー・ケルナッハ・ケフト・ダーモットは、忸怩じくじたる思いにさいなまれていた。


 コナリイは口の運びにこそ幼さが垣間見られるが、その深慮遠謀はいにしえの名君の水準に達していた。


 彼女の言うとおり、新聞各紙では兄妹両陣営の対立を煽ってはいる。


 しかし、活字とは裏腹に動員兵力ひとつとっても、コナリイ陣営はアルイル陣営の3分の1にも満たないだろう。


 アルイル上級大将、ブリクリウ大将らが本気を出せば、コナリイ陣営など一捻ひとひねりであろう。我々はとても対抗しうる勢力などではないのだ。



 確かに、セラ=レイスのような男は、旧態依然とした兄陣営では生きていけないだろう。


「兄上の陣営が彼を粗雑に扱うのであれば、こちらで重用すればよい。要は、東海岸に帰さぬようにすれば良いのでしょう?」


 金髪の准将がと言い切る間に、配下たちは佇立したまま腰の後ろに両手を組んでいた。上官の聡明さを前に、頭を垂らしてしまってはいたが。



「……もう少し、彼が兄上に重用されていれば、先のヴァナヘイム戦役における帝国軍の犠牲は、少なくて済んだのでしょうね」


 最後に一言付け加えたコナリイは、小首をかしげ、寂しそうにほほ笑んだ。






【作者からのお願い】

第2章までお付き合いくださり、ありがとうございました。

この先も「航跡」は続いていきます。


コナリイの聡明さに驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


コナリイたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「第3章 主な登場人物」お楽しみに。


再び草原の国にスポットを当てて描いていきます。

騎馬民族率いる若者の破竹の躍進にご期待ください!

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