【11-19】無心 下《第11章終》

【第11章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

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 新式野砲80門に大隊規模の砲兵――東征軍総司令部からのけた違いな要請を前に、東都・ダンダアクでは、アルイル=オーラム上級大将と、その傅役もりやく・ターン=ブリクリウ大将の検討が続いている。


「ずいぶんとまぁ遠回りをしたものだ。数千の将兵と一人娘を失って、ようやく重い腰を上げたというわけか」

 この脂身でできた上級大将は、セラ=レイスが味方を作戦に巻き込むを引き起こし、ブリクリウの一味が戦死していることなど、とうの昔に忘れている。


 その後の査問会騒動も忘却の彼方のはずだ。


【3-1】査問 ①

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 まして、この度、老将によって罷免された参謀たちも、この傅役の一派であったことなど、記憶の片隅にすらないのだろう。


【3-7】懲罰人事 下

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 つまり、この脂肪漢しぼうかんの発言は、彼らの低能さをその派閥長たる自分に向け、当てつけがましく言ったのではなさそうだ――そのように、ブリクリウはとらえることにした。


 そもそも、この脂身にそこまでの知恵は回らない。


 ――まぁ、いい。

 狐面の傅役はいっそう両目を細めた。


 彼の下には臣従を誓う者が後を絶たない。低能・無能どもに用意してやるポストなどないのだ。


 大敗を喫した揚げ句、罷免ひめんされた愚か者どもなど、この東都へ逃げ帰ってきたら適当な罪状を付けて、ろうにでも放り込んでくれる。



「……この野砲と砲兵の大量発注も、老人の発案ではなく、その若造の入れ知恵かもしれんな」

 アルイルが書状を読み返しながらつぶやく。


 ――ほう、今日はラードの勘が冴えている。

 ブリクリウは、香気たち上るカップをソーサーに乗せて、アルイルの前に置いた。

「御意。いかがいたしましょうか。旧式野砲を10門ばかり送っておきましょうか」


「いや……」

 音を立てて紅茶を一口すすると、肥大した上級大将は満足そうな笑みを浮かべた。

「……その若造の力量を試してみたい気もする」



 アルイルが逡巡しゅんじゅんしている間に、通信士官が入室し、新たな通信筒をブリクリウに手渡した。


 狐面の傅役は、慣れた手つきで通信文を取り出し、文字に起こされたばかりの文書へ素早く目を通していく。


「どうした?『80門は、ちと過剰請求だった』と、詫びでも入れてきたか」

 この肉塊は、笑うと贅肉ぜいにくの付いた頬が崩れ、醜怪しゅうかいさに拍車がかかる。


「……角材1万本の無心も、追加で参りました」

 主人のみにく笑窪えくぼなど見てられぬと、ブリクリウは新たな情報を追加した。


「なにッ?」

 家でも建てるつもりなのかと、アルイルは本気でつぶやいている。


 主人の阿呆面を視界に入れぬようにして、彼は通信筒に同封されていたもう1枚の紙片も取り出した。それを一瞥いちべつした狐の瞳に、辟易へきえきとした色がありありと浮かぶ。


「ときに、その若造……東征軍より、『旧ヴァーラス城主の娘を保護している』との報告も来ておりますが」


「ま、まことかッ!?」

 アルイルはその図体からは予想できないほどの勢いで、豪奢ごうしゃな椅子から立ち上がった。


「落城の際、逃がしたのではなかったのか」


【1-3】 四将軍

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「どうやら、若造の部隊が秘蔵していたようですな」


「若造め、やりおるわ」

 帝国宰相嫡男は、真紅の絨毯じゅうたんの上を落ち着きなく歩きまわった。

「すぐに湯浴ゆあみさせよ」


「まだ、この東都には到着しておりません」


「ええい、こちらから快速馬車を向かわせてやる」


 ドアノブに手をかけた主人に、傅役は声をかけた。

「閣下、野砲は」


「構わん。最新式を80門、砲兵・角材ともども、ただちに送ってやれ」

 アルイルは言いながら、廊下を駆けるように進んでいった。


「……かしこまりました。すぐに手配いたします」


 ブリクリウはいつもどおりのすました表情のまま、うやうやしく一礼した。






第11章 完

※第12章に続きます。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスが新たにどのような作戦を思いついたのか、気になる方、

ブリクリウの毒舌が、いよいよ冴えわたっているな、と感じられた方、

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回からは、第12章「束の間の優勢」が始まります。


フェイズは、久々に草原の国・ブレギアへ。

「貴婦人」の異名を持つキアン=ラヴァーダ宰相も再登場します。


お楽しみに。

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