【3-7】懲罰人事 下 《第3章 終》

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860003776772

====================



 帝国暦383年5月15日、斥候兵の処刑を皮切りに、懲罰人事は次々と断行されていった。


 そこでは、査問会での負けを取り戻すかのように、黒狐もといターン=ブリクリウが躍動した。


 最終的な攻撃命令を発した副将兼参謀長・エイモン=クルンドフ中将と、彼直属の補佐官たちは、全員が降格のうえ左翼に転属となった。


 東征軍副将の後任には、キンピカ少将もといリア=ルーカーが、中将に昇格のうえ着任した。


 参謀長の後任には、禿頭とくとう大佐もといコナン=モアナが、准将に昇格のうえ着任。



 先任参謀セラ=レイスとその部下たちは、降格こそ免れたものの、全員が参謀職を罷免ひめんされ、右翼第3連隊付きを言い渡された。


 代わりに包帯少佐もといアラン=ニームドが、中佐に昇進のうえ先任参謀へ据えられた。


 その下に、眼鏡大尉もといフォウォレ=バロル以下、調査団のメンバー複数も、それぞれ参謀として配置されることになった。



 ズフタフ=アトロン老将も、自らの降格と総司令官職の解任を願い出たが、東征軍のオーナーであるアルイル=オーラム上級大将によって却下された。


「……戦闘そのものは大勝利を得たわけであり、これ以上、戦勝に水を差すがごとき責任論は、余が許さん」


 ブリクリウ調査団長が読み上げる、オーラム上級大将閣下からのお言葉――東征軍新体制への激励――の末尾は、そのように結ばれていた。


 アトロン大将以下、将校たちは軍帽を脇にかかえて頭を垂れ、粛然とそれに聴き入ったのであった。


 脂身上級大将のお言葉からは「マグノマン准将は、参謀部の命令に反して独断で動いたことによる自業自得だ」との苛立ちが言外ににじみ出ていた。



 ブリクリウとしては、今回の騒動を機に、アトロン派閥を一掃しようと画策していた。


 そのため、いつもの無表情を取り繕いながらも、このような主人の訓戒を読み上げていることは、意に染まぬこと甚だしかったことだろう。


 狐顔の団長は、そうした事情への腹いせのように、査問官として引き連れてきた部下たちを副将、参謀長、さらに参謀部の後任にそれぞれ据えると、志半ばで東都ダンダアクへ引き揚げていった。


 彼の臙脂えんじ色の馬車を見送る将校たちのなかに、紅髪の青年の姿はなかった。



 後日、狐の子飼いの者たちの所領における兵馬も、帝国東岸領各地から出立し、この東征軍へ合流することになるだろう。


 さらに、東征軍のなかで、自らの派閥に与する四将軍のうち、リーアム=ブレゴン、エイグン=ビレー両先任少将を中将に昇格させる手はずも、ブリクリウはすみやかに整えたのだった。


 「一掃」とは言えないまでも、東征軍内のアトロン総司令の影響力は大いに削がれ、その分、ブリクリウ大将の影響力は増大した。



 ここに、帝国軍の懲罰人事は落着したのである。



第3章 完

※第4章に続きます。




【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスたちの行く末が気になる方、

黒狐には敵わないなと思われた方、


ぜひこちらから🔖や⭐️をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次章からは、ヴァナヘイム国にフェイズが移っていきます。

アルベルト=ミーミルと彼を取り巻く人物の活躍をお楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る