【9-21】学園生活 ⑦ 図上演習
【第9章 登場人物】
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帝国暦373年6月末、帝国軍士官学校では、生徒たちによる大規模な図上演習が行われた。
毎年この時期、各学年から成績優秀者が選抜され、方眼図上、駒と
図には山あり河あり城砦あり――駒がさしかかると、それぞれの特徴・制約が課される。
駒には騎兵あり歩兵あり砲兵あり――それぞれの動き・攻撃形態が決められている。
複雑なチェスゲームといったところだろう。
演習はトーナメント方式であり、優勝決定戦と3位決定戦をもって終了する。
この模擬戦では、生徒たちに対し、事前に軍資金が渡される。演習用通貨クランをもって、思い思いの駒を取り揃える――生徒好みの部隊を編成することが可能なのだ。
言い換えれば、作戦図上に駒を並べる前から勝負が始まるのである。
ところが、この年の図上演習は、例年にない事象が2件ほど生じている。
1件は、1年生徒であるコナル=ケルナッハが、3位に入賞する快挙を成し遂げたことである。
上位は駒運用などに慣れている4年、3年生徒により占められるが、毎年の恒例であった。しかし、今年はその踏襲とはならなかったのである。
もう1件は、再試合が行われたことである。
1年生徒・セラ=レイスは、1回戦で敗退となった。
その1回戦で、レイス生徒が圧倒的な勝利を収めながら、教官審判員たちの協議の結果、再試合が組まれることになったのは、異例中の異例である。
レイス生徒は、軍資金の使い方からして奇抜であった。
通常の生徒たちは、騎兵を中心に、それを補佐するように歩兵を用意する。しかし、彼は手持ちクランの7割以上を砲兵と
通常、戦闘力のない輜重兵など、最低限の数しか用意しない。まして、砲兵など見向きもされなかった。
砲兵は、機動力がないうえに守備力もないため、懐に入られたらお手上げである。おまけに、弾薬輸送に輜重兵の負担が増える。
学生たちの輜重兵は、騎兵のための飼葉を用意するのに手いっぱいで、重たい弾丸を運ぶ余裕などないのだ。
ところが、演習開始と同時に、レイス生徒の砲撃はすさまじいものがあった。対戦相手の2年生徒・オスカー=クレイグは、麾下の駒を前に進めることすらできない。
クレイグ生徒は、弾雨が弱まった隙を狙って、騎兵を突出させたが、まんまとレイス生徒のクロスファイアポイントに飛び込んでしまっていた。
しかしながら、審判員を務める教官たちは、レイス生徒勝利の判定をなかなか下さなかった。
帝国の伝統戦術が、このような邪道戦術に負けたとあっては、他の生徒たちに示しがつかない。そうなのだ、この成績優秀者たちによる大演習は、同期・後輩たちに範を垂れるべき儀式なのである。
長い協議の結果、レイス・クレイグ戦は、再試合の運びになったのであった。
再度行われることになった演習では、審判員たちが多数立ち合い、いちいち指導が入った。
「いまのは無効だ、もう一度振り直せ」
砲弾の命中は、
10回的中が8回に、8回が4回に、レイス生徒の砲兵の弾は、ほとんど当たらなくなっていった。
そればかりが、壊滅したはずの騎兵中隊が復活していたり、歩兵では動けないような数のマス目を移動したりと、クレイグ麾下の駒は秩序なく躍動した。
再試合は、レイス生徒……セラの完敗に終わった。
観戦していたコナルなど一部の学生は憤り、審判員に物言いを付けようと湧き立った。
しかし、当のセラは冷静であり、憤る級友の肩を軽く叩くと、会場を立ち去っていった。
頭を冷やしたコナルが、紅髪の級友を校舎屋上まで追いかけて、自らの参謀になってくれるよう要請した――それは、教官も他の学生も預かり知らぬことである。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
図上演習に興味を持っていただけた方、
この頃から、レイスの作戦はなかなか認められなかったのだな、と思われた方、
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セラとコナルが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「学園生活 ⑧ 電報」お楽しみに。
しかし、今週もセラ宛の手紙はなかった。
紅毛の少年は首をひねった。
毎週欠かさず手紙をくれる妹が、もう2週も続けて音沙汰がない。
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