【2-8】 海の向こうからの贈り物

【第2章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330664586673465

【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277

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 帝国陸軍 最年少将官たる少女コナリイは、自らの陣営を冷静に見つめている。


 上級大将・アルイル陣営に比べて、兵馬が不足しているうえに戦場経験が乏しいことも知っていた。


 ネムグラン宰相は、大きな作戦を娘に課そうとしている。それも遠くない将来に。


 だから、1日も早く麾下の兵制改革を押し進めねばならなかった。だが、どこから手を付けて良いのか、少女コナリイは皆目見当がつかない。


 帝立図書館に通い、軍政について記した著名な本をいろいろと手に取ったが、10歳そこそこの彼女には難解過ぎた。


 これまで、少女コナリイと共に歩いて来た部下たち――彼等は1対1で剣技を競わせたり、自軍単体を進退させたりすることについては、申し分なかった。


 だが、時代の趨勢すうせいを見極め、全軍の編成を練ることは不得手のようだった。


 世話役ファディなら、戦場全体を見渡し、各隊を見事に動かして見せるだろう。だが、七三黒髪の内にある明晰な頭脳をもってしても、陣容再編をやってのけるには覚束ないらしい。



 焦りは募れど、手応えを得られぬまま、月日ばかりが過ぎていく。


 部下の残念なイケメンダーモットにいたずらを仕掛けて1日を終えてしまった時には、さすがの少女コナリイも、金色の髪をくしゃくしゃにしていた――いったい何をやっているの私は、と(いたずらは楽しかったけど)。


 大海アロードの向こうから、紅毛の風変わりな若者とその一行が着任したのは、少女コナリイが毎日を無為に過ごしていた矢先のことである。



 父が呼び寄せた紅髪の青年は、先のヴァナヘイム戦役の立役者であった。


 大海向こうでの戦役の当事者――東征軍内の事情いざこざは、帝都においてほとんど知られてはいない。


 だが、少女コナリイは、ネムグランからのメッセージを読み取った。


 この紅髪の青年から学べ――と。



 さすがは帝国宰相である。その慧眼けいがんは衰えを知らなかった。


 砲兵中心の作戦を練り、一国を滅ぼしてきたばかりの生きた教本――それを、ネムグランは差し向けてくれた。



 突破口が開けたとは、このことだろう。


 紅毛の将校は、少女コナリイの幕僚たちが持ち得ぬ才気を有していた。求めていた人材そのものだった。


 なかなか胸襟を開いてはくれなかったが、彼からほとばしる才気を少女コナリイの白い肌はひしひしと知覚した。



 彼は基本的に怠惰ぐーたらだった。


 執務中であろうと船を漕ぎ、書類仕事から度々逃亡した。風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みすることもあった。


 だがそうした性質は、鋭利過ぎる刃を包むため――さやのようなものだと少女コナリイは見て取った。


 き身を振り回そうものなら、周囲の部下たちはもちろん、自身すらも傷つけてしまいかねない。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


コナリイは焦っていたのだな、と気がついていただけた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


コナリイたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「お金は大事」お楽しみに。


「だいじょうぶ!お金の算段はつけるから、セラ=レイスが良いと思う野砲のリストを急ぎ用意して」


「か……しこまりました」


にこにこと微笑む金髪の少将を前に、狼狽ろうばいを隠しきれない紅髪の中佐――コナリイの言動をレイスは俄かに信じかねているのだろう。

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