【4-33】 安直な流言飛語

【第4章 登場人物】

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 アリアク城塞に、不穏な動きあり――。


 帝国暦386年4月15日、第1報がもたらされた当初、ブレギア首都・ダーナでは、その報告内容を信じる者はいなかった。


【地図】ヴァナヘイム ブレギア国境 航跡 第2部 第4章

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16818023214098219345



 北の草原への春の訪れは遅い。だがこの時、ブレギア首都の諸将は、冬解の日差しに春眠へいざなわれていたかのような様相を呈していた。


 新国主以下は、主力軍を引き連れ遠征に出払ったままだ。ダーナの留守居役たちは緊張感を欠いてしまうのも無理はなかっただろう。


「……帝国の流言飛語にしては、ちと安直すぎるな」

 宰相・キアン=ラヴァーダも小首をかしげ、その美しい銀髪をわずかに揺らした。


 当代随一の智将ですら、その程度の認識に過ぎなかったのである。



 3月20日、レオン一行は、ザブリク城塞を餌に帝国軍主力を釣ろうとして失敗した。


 旧都ノーアトゥーンへ引き揚げていく帝国軍の背中をにらみつつ、ザブリク城下に火を放つと、4月3日、彼等もリューズニル城塞経由でアリアク城塞まで帰還している。


【4-21】 ザブリクの3日囲い 上

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 アリアク城塞でブレギアの大軍は解散となり、各部隊は三々五々自領へと引き揚げていった。その間、往路と同じく国主・レオンやその補佐官たちは、そこで起居している。


 アリアクは、これまでどおり旧ヴァナヘイム領侵攻の玄関口であり、作戦の拠点なのだ。


 そして4月10日――わずか6日前、レオン一行は首都に向けて同城塞を出発したようだ。寝床の熱も冷めないかのようなタイミングで、かの地で陰謀の火種がくすぶるとは考えにくい。



 そもそも、あの地味で堅実な城塞内部の様子は、権謀術数とは無縁な場所だ――そうした認識を誰もが有していた。


 何より、ブレギア臣民が抱くドネガル家のイメージは、先に病死したダグダの健気なほどに滅私かつ献身的な姿そのものであった。



 こうした様々な理由により、冒頭のような情報など取るに足らない誤報と聞き捨てられたのだった。アリアク城塞になど起こりようもなく、「帝国の流言飛語にしては、ちと安直」なのである。



 しかし、この時間の空費が、のちのちブレギア国の命運を左右することになる。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


まさか、アリアク城塞が叛乱を起こしはずがないと思いたい方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ラヴァーダ宰相たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回は最長タイトル「ラヴァーダが造りあげた城にラヴァーダが育てあげた兵をぶつけたら」お楽しみに。


「先代ドネガルの忠義が、ブレギアを滅ぼすいとぐちになろうとは、皮肉なことではないか」


セラ=レイスは、アリアク城塞郊外の下宿先でロッキングチェアに身を預けていた。レモンを浮かべた温かいティーカップ――それを両の手で包みながら。


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