【4-21】 ザブリクの3日囲い 上
【第4章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023213408306965
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「敵城塞司令官より、電文が届きました」
「なにッ」
「まことかッ!?」
ブレギア軍総司令部の大天幕では、マセイ=ユーハ・ダン=ハーヴァ等若き幕僚たちが、通信係に詰め寄る。
早すぎる降伏の申し出であった。
帝国暦386年2月末、アリアク城塞に結集したブレギア軍8万は、3月4日に出立。同月18日、ザブリク城塞を囲んでいた。
ところが、包囲を開始してわずか3日にして、城塞側は白旗を掲げたのである。
【地図】ヴァナヘイム ブレギア国境 航跡 第2部 第4章
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16818023214098219345
城塞司令官は、紺地に金馬――ブレギア大師旗が城下に翻っただけで、縮みあがってしまった。
「後詰の帝国軍、日没とともに進軍を停止したとの由……」
その日の夜、斥候兵から報告がもたらされると、幕僚たちの間にため息が漏れる。これで何度目であろうか。
1月にレオンが発した出兵の大号令は、隠し立てなど一切ない馬鹿正直な宣言だった。
【4-8】 凱旋と就位 下
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818093072958788775
さすがに、ブレギア新国主の大号令を受けて、旧都・ノーアトゥーンの帝国軍も
だが、救うべきザブリクが落ちてしまい、帝国軍の足は止まった。十中八九、このまま回れ右することだろう。
ブレギア軍はまたしても、帝国正規軍と刃を交わす機会を失した。
「それにしても、敵ながらザブリク城塞はだらしないな」
「ああ、近くまで援軍が進んでいたというのに、それを待たずして降伏するとは」
ユーハとハーヴァの言葉には、失望の色が濃く浮かんでいた。
彼等はアリアク城塞出立前から、ザブリク郊外――ニール河を挟んでの帝国軍との決戦を何度もシミュレートしてきた。そして、いよいよ帝国軍本隊との衝突が近いと期待し、高揚していた。
それだけに、肩透かしをくらったわけである。
一昨年から、帝国は旧ヴァナヘイム領東部区域を奪われっぱなしだ。
若きブレギア首脳部は、定例会見や各国記者からの取材に対して挑発的な言動を繰り返し、帝国の
前年、帝国軍がエルドフリーム城塞を見殺しにしたことは、五大陸七大海に報道された。同城塞の陥落により、国境周辺の諸豪族の帝国離反・ブレギア従属に歯止めがかからなくなっている。
帝国の忍耐もそろそろ限界を迎えることだろう。
今度の遠征こそ、帝国正規軍との正面衝突に突入する可能性が高かった。だからこそ、こうるさい御親類衆や宿老衆にも従軍を命じたのであった。
ブレギア新国主とその補佐官たちは、威勢のいい言動こそ目立つものの、大規模な敵を相手にするのに、まだまだ純軍事的に力不足であった。
兵力動員においてホーンスキン一族を頼らねばならず、兵馬運用においてバンブライ、ブイク、ナトフランタル等に依存しなければならなかった。
若い補佐官たちが、そうした実情をせめて後者――正直に歴戦の老将軍たちへ伝えることが出来ていたら、この草原の国の軍勢は、いま少し柔軟さに富んだことだろう。
帝国の援軍は、今回も鈍重で期待できず、ザブリク城塞は早々に降伏開城を決した。
「ザブリクの3日囲い」だ、と新聞各社は紙面を
もっとも、あのエルドフリームを屠ったブレギアの大軍を、田舎城単体で食い止めよというのである。城塞側からすれば、どだい無理な話であった。
救うべき城塞が落ちた――目的を失した以上、この度も帝国援軍の引き揚げは当然だろう。大天幕では、筆頭補佐官・ドーク=トゥレム以下が不承不承、ザブリク城塞の仕置きについて検討を進めていた時だった。
天幕内で、突然の大きな音が鳴り響いたのである。
彼等が驚いて振り返ると、そこには、力まかせにテーブルを蹴倒した新国主の姿があった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
1日も早く父を超えたい、ブレギア軍は十分に戦力として整っているのに、帝国軍はまた決戦を避けるか――レオンの焦りを感じられた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「ザブリクの3日囲い 下」お楽しみに。
しかし、村々に火を放つという凶行に際し、齢76の老将が進み出ていた。
「今年は春の到来浅く、寒さの厳しい時期が続きそうです。家屋、食糧を失えば、領民たちはさぞ困りましょう」
バンブライの声に呼応するかのように、寒風が天幕を叩いている。
「だったら何だというのです。帝国の領民ですぞ」
やれやれと言わんばかりに、国主補佐官筆頭・ドーク=トゥレム25歳が両手を拡げて見せる。
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