【4-8】 凱旋と就位 下

【第4章 登場人物】

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 帝国暦が386年に改まってから、レオン=カーヴァルは首都・ダーナに凱旋した。


 帰国早々、若君は旅装を解かぬまま、翌2月末の出兵について大号令を発する。


 レオンは忙しい。2月15日、首都・ダーナでは先代・フォラ=カーヴァルの大法要が営まれた。翌日には即位式が執り行われ、彼は正式にブレギア国主の座に就任した。


 叔父・ウテカ=ホーンスキン以下御親類衆による国政壟断ろうだん期間もあり、先代崩御から2年以上が経過していたが、国主代替わりの儀式を、ブレギアでは行われていなかった。


 レオン=カーヴァルの新国主就任について国内外にお披露目ひろめできていない以上、彼はいまだ「先代遺児」であり、「国主代行」に過ぎなかったのである。


【1-9】 軍備負担と発言力

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 筆頭補佐官・ドーク=トゥレム以下、ブリアン・ユーハ・ハーヴァ等は、主人に先駆けて首都に戻り、儀式とそれに続く出師すいしの最終調整に奔走した。


 法要・即位式ともに、アニュヴァル、メイヴ、アルレル、クーウル等 留守居の文官によって下準備が進められていた。加えて、前年10月に首都に戻っていた宰相・ラヴァーダによる差配も大きい。


 この日のために、ダーナの中央広場には丘のような祭壇が築かれ、はるばる帝都のオーク教会から、太陽信仰――ルイド教僧正・ダランが招かれた。


 ブレギア土着の天上界神・地下界神の儀礼を太陽神に優先させるべきとの宰相の意見は、若君の補佐官衆によって徹頭徹尾否定されている。


第1部 【9-7】舟出 上

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 昨年末より、招待状を封じた通信筒が各国——ステンカ・アンクラ・シイナ・ハング・イフリキアほか――政府や新聞社に飛び、この儀式のことは通達されていた。


 ダーナの街に異常なほど群衆や記者団が押し掛けたのは、若君の凱旋を取材するためだけでなく、この儀式に参列しようとするものでもあった。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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 凍てつく空の下、儀式は2日間にわたって執り行われた。


 初日の大法要では、フォラ=カーヴァルの冥福が太陽神に向けて祈祷される。


 先代国主の偉業が称えられ、死後の世界での幸福を経文とともに僧正以下、ルイド教僧侶たちが唱えていくのだ。


 ブレギアの文武百官、各国の国賓、ブレギア軍楽隊、各国新聞記者はめいめい喪服に袖を通し、数万の民衆もまた粛然と聴き入った。


 ダラン僧正の存在感は本物だった。天上界神・地下界神の信仰とは明らかに異教の作法でありながら、彼の生み出した厳粛な空気は、草原ヘールタラの民は戸惑い――ややもすれば不満すらも押し殺したのだった。


 空も弔意を示すかのように、灰色の雲をまとっていた。時折、参列者の頭上へ粉雪を見舞った。



 翌日の即位式は、打って変わってはなのあるものとなった。


 礼服に改めたブレギアの文武百官、各国の国賓、ブレギア軍楽隊、各国新聞記者、それに着飾った数万の領民たち。


 一同が見守るなか、きらびやかな礼装に身を包んだレオンが登壇した。


 空色が限りなく薄まった寒天の下、ダラン僧正が祭文を読み上げながらヤドリギの前まで進む。儀式の冒頭から太陽神に供えられていたものだ。


 僧正は手ずから黄金の鎌で赤い実を切り落とすと、それを若者の手のひらに授けた。


 軍楽隊の演奏が山場を迎える。群衆からは、どよめきに続き豪雨のような拍手が続く。


 ブレギア2代目国主 誕生の瞬間であった。



 新国主の門出を祝う体裁をとりながらも、補佐官衆・御親類衆・宿老衆――帝国本土から従う者たち、草原で採りたてられた者たち――文武百官の胸中は様々だった。


 国主就任を早く名実一体としたい者たち、それを認めない者たち、前国主の御世を懐かしく思う者たち、草原の神ではない儀式を複雑な思いで眺める者たち――胸中に去来するものは、バラバラであった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レオンの国主就任をお祝いいただける方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「杯と愚痴と 上」お楽しみに。


「若造どもが、いくさを何だと心得ておるのか」

「まるで駒取りゲームか何かをしているつもりのようじゃ」

老将2人の自棄酒は、連日のように続いている。


「……」

ブイクは無言のまま杯を置いた。


「……出るか」

ナトフランタルは自分に聞かせるように呟いた。


卓上に小銭を置くと、2人は静かに酒場を後にした。

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