【4-18】 帝国正規軍との殴り合いを欲す 下

【第4章 登場人物】

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【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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 旧知の友であった先代国主が無理を重ねている姿を、ブレギア国宰相・キアン=ラヴァーダは何度も間近に見てきた。


 しかし、よそ者である彼らが広大な草原に受け入れてもらうために、あるじは無理を重ねねばならなかった。立ち止まることは許されなかった。


 己とその一族を任せるに足る人物なのか、草原の大小領主たちから常に品定めを受ける身の上なのだから。


 盟友・フォラは擦り切れるように国主を演じ切り、そして逝った。



 ――2代目はどうか。

 若き2代目は、偉大であった初代と比較しようとする目に、常にさらされている。


 つまり、新国主・レオン=カーヴァルも、一人前と認められ、大国主として敬われるためには、ただひたすら敵に勝つしかなかった。だからこそ、正月返上で出兵を重ねている。


【4-6】 越年の出兵

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 そうした、主の置かれている立場を知り抜いている宰相は、面と向かって若君に苦言を呈しようとはしなかった。


 事実、戦う度に勝つことから、重臣たちのレオンを見る目が変わってきている。とりわけ、エルドフリーム城塞攻略は、隣国のシイナも侵略の手を引くなど、その効果はひときわ大きかった。


【4-4】 宣伝効果

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 しかし、一方で、戦い続けることによる副産物も生じつつあった。


 リューズニル・ウルズ・エルドフリームに続いて、ブレイザ・バルドル――新生ブレギア軍は、帝国(旧ヴァナヘイム)側の5つもの城を落とすことに成功した。それも、わずか1年の間に。


【地図】ヴァナヘイム ブレギア国境 航跡 第2部 第4章

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 すると、レオン一派の増長ぶりは、新聞各紙がうたうところの「天をくがごとし」となっていったのである。


 特に、エルドフリームを落とした時、レオンの高揚ぶりは異常なほどだったと聞く。先代父王が抜けなかった城塞を攻略したのだ。快感を通り越し、恍惚こうこつの境地まで至ったに違いない。


【3-35】 本音とは裏腹に 下 《第3章 終》

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 もはや、点在する旧ヴァナヘイム領の各城塞都市では、ブレギア軍を食い止めることは不可能となっていた。


 自然じねん、ブレギア新国主らは、旧ヴァナヘイム国の将兵撃破や城砦陥落だけでは満足いかなくなり、帝国正規軍との決戦を望むようになっていく。


 ヴァーガル河で打ち破った、「帝国」という化粧をしただけの旧ヴァナヘイム軍ではなく、帝国本土の正規軍を求め始めたのだ。




 ところが、旧ヴァナヘイム領に駐留する帝国治安維持軍は、滅ぼしたばかりの同国統治にかかりきりであった。


 かつてヴァナヘイム軍を率いて帝国軍を散々悩ませたアルベルト=ミーミル退役大将――彼が残党とともに蜂起し、危うく帝国軍が総崩れを起こしかけたのが、一昨年の3月のことである。


【16-2】義挙と反乱 下

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 あれからまだ2年も経過していないのだ。旧都・ノーアトゥーンに詰める帝国首脳部は、とてもブレギア対策に本腰を入れている余裕などなかった。


 帝国最大の権力者・ネムグラン=オーラム宰相としては、草原の小国が局地戦で勝ち続けたところで意に介していない。蛮族におもねる小倅こせがれなど、眼中にないのだ。


 帝国軍主力がその気になれば、一撃で失地を回復できる自信があった。だから、放置していただけのことである。


 そうした事情もあって、ブレギア軍に囲まれ再三の救援を乞う城塞に対し、帝国軍は取りつくろう程度に援軍を差し向けるだけであった。


 そして、エルドフリーム・ブレイザ・バルドルとも、戦場に駆けつける前に手遅れ――救援すべき城塞が陥落――という事態を繰り返した。目的を失った以上、帝国援軍は撤退するほかあるまい。



 先のブレイザ城やバルドル城攻略の折、帝国軍の背中――遠く剣を収め、旗を丸める後ろ姿――をレオンは見送るしかなかったそうだ。「戻って、我等と一戦交えよ」と、大声を出したい衝動にさいなまれながら。


 目前で足を止めるや、さっさと引き揚げていく帝国軍を眺める度に、レオンとしては切歯扼腕せっしやくわんの想いに震えていたのだろう。


 ――いまこそ、帝国本体と殴り合いたい。

 互角に拳を交えられるだけの勢いをブレギア軍は有している。そこで勝利を得て、はじめて自分は父を超えることができるのだ。


 恍惚こうこつの境地は、異様なほどの中毒性を有する。エルドフリーム城塞を落とした時のような高みに、レオンはもう一度至りたいに違いない。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


帝国軍とのリングがなかなか用意されないもどかしさ――レオンの気持ちが分かる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「仮住まい 上 戦術講義」


「ここにAとB、2つの軍勢があったとしよう」

突如、紅毛の上官は、白手袋をはめた手を2つ丸くしてテーブルに並べた。


「AとBが戦端を開く条件は、何か分かるか。ちなみに、攻城・籠城戦のように、一方が圧倒的に有利・不利な状況は除外する」

彼は戦術講義の教官のようにお題を投げてきた。


「戦闘を開始する条件ですか……」

トラフは即座に回答できない。「宣戦布告」あたりが思い浮かんだが、そのように形式的なものは、この上官が最も軽視することを彼女は知っている。

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