【3-35】 本音とは裏腹に 下 《第3章 終》
【第3章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575
【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407
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筆頭補佐官を私室から退け、再び1人になったレオンは、安物の椅子に座り込んだ――崩れるようにして。
背もたれの上へ両腕、そして額を預ける――愛馬の
馬匹への負担が大きくなると、銀髪の幼馴染によく注意されたものだが、ふわふわとした毛に頬が包まれるのが、レオンはたまらなく好きだった。
だが、いま彼が頬を預けているのは安普請の腰掛けだ。しかも、前後反対ときている――向きを動かすことすら
戦死した第1堡塁指揮官・ドフリー=アンドフなどの首実検。
憤死した城主・ムニル=セーフリの遺体見分。
主だった者へ先行しての恩賞の沙汰。
今後の全軍の針路確認。
城塞を陥落させた後も、若き主君は休まる暇もなかった。
なにより、エルドフリーム攻防戦は、
それを力任せにこじ開けた。
連日、将兵軍馬を死地に送り続けたことは、レオンの精神力を極限まで
それでも、金髪の若者は本陣の前に立ち続けた。
双眼鏡のレンズの先では、数十数百の命が一瞬にして霧散した。
彼等の退路を断ち、前進を命じたのは、自分なのだ――レオンは膝がわらい、震える手がサーベルを落としそうになる。
薄暮の戦場を駆け抜けていく兵卒は、灯明皿を彷彿とさせた。
だが、後続の小皿たちも、さしたる時間を経ずして同じ境遇をたどった。
それら無数の破片によって舗装されし道が
レオンは、そこへ一歩を踏み出すことができない。
「
父王が重々しく歩みし舗装路に、足を踏み入れる覚悟が出来ていなかった。
何度も「撤退」の2文字が脳裏をよぎった。
バンブライほか爺様たちは、エルドフリーム城塞攻撃の無理を、説いていたではないか。
忠告を容れなかったばかりか、ブルカンをはじめそれら宿老衆各隊に多大なの犠牲を強いてしまった。いまさら、どうして命じられようか――おめおめ引き揚げろなどと。
ホーンスキン家の連中が見ている。逃げ出しでもしたら「鍋の煤を落とすためだったか」と、さぞや笑うことだろう。
退くに退けなくなっていた。
だから、サーベルを掲げ続けるしかなかった。言うことを利かぬ右手を、震えが止まらぬ左手で押さえながら。
白刃1本にすがっていたと表現した方が正しかったのかもしれない。どれほど下腹部に力を込めようとも、膝のあそびはいかんともしがたかった。
そして、いまレオンは、
はじめは、心の内を感傷――後悔が支配していたはずだった。
ところが、何故だろうか――。
いつの間にか、腹の底から愉悦がふつふつと湧き上がってくる。
――「小覇王」が攻略できなかった城を、俺は落とした。
初めに口をついたのは、くぐもった
――それも、宰相抜きで。
しかし、嗤いは、呼吸をするごとに制御できないものになっていく。
――親類衆に目にもの見せてやったぞ。
沸き起こるに息苦しく、それでいて垂れ流すに心地よい笑声――レオンは噛み殺すのに苦労した。
――邪魔立てする者は、もはやいまい。
救援のために重たい腰を上げた帝国軍は、エルドフリーム陥落を知るや旧都へ引き返したと聞く。
【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249
金色の髪の若者は、湧き出ずる嗤いについて押し殺すのをやめた。
たちまち、それは
レオンは乗馬のまま、
愛馬の蹄がザク、ザク、ザクという乾いた音を立てる。破片がさらに細かいものになっていく。
若者の嗤い声ははばかることなく、さして広くもない室内に響いていった。
安普請の椅子を掴む白手袋は、わずかに震えていた。
【作者からのお願い】
35話も続いた第3章にお付き合いくださり、ありがとうございました。
この先も「航跡」は続いていきます。
レオンの覚醒に一抹の不安を覚えられた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「第4章 主な登場人物」お楽しみに。
この先は、帝国とブレギア国、双方カメラワークを駆使していきます。
第2章で登場した金髪の少女や紅髪の青年も、また活躍してくれると思います。
宜しくお願い致します。
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