【3-34】 本音とは裏腹に 上

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 帝国の援軍は間に合わなかった。


 エルドフリーム城塞救援のため、ズフタフ=アトロン大将は、旧ヴァナヘイム国の民への募兵に尽力。


 兵の質は問わぬという、なりふり構わないものだったが、それでも5万という頭数を揃えることに成功した。


 そこへ自前の兵数を加えることで、かろうじて東都・ダンダアクから出撃許可を取り付けた同大将は、帝国暦385年8月22日、旧都・ノーアトゥーンを発する。


 彼は東へと急いだが、粗製濫造そせいらんぞうの各旅団が災いし、行軍速度は一向に上がらなかった。9月3日、アトロンとその幕僚たちは旧都から180キロ東の街・ビョルグにてエルドフリーム城塞陥落を知り、引き返している。




 ブレギア兵によるエルドフリーム城内の巡検が終わった。


 安全が確認され、簡易清掃が施された個室にレオンは入る。


 城主・セーフリが、平時過ごしていた私室だという。岩山をくり抜いた城塞にしては、この部屋だけは自然光を拝むことができた。



 すぐにノックの音が響く。きっちりと3回。


「……」

 口をつこうとした一息を飲み込むと、レオンは入室を促す。


 来訪者は案の定、トゥレムであった。


 ――まったくせっかちなことだ。

 黒癖毛の筆頭補佐官の目的は、分かっている。この城をブルカンごとき老人に与えた真意を問いただし、撤回させるための訪問であろう。


【3-33】 鍋の煤落とし

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330662313177366



 レオンは、窓辺に立ち応対する。ガラスの先に視線を向けたまま。

「老いぼれどもを手なずけるためには、たまにはエサが必要だ」


 敬うべき宿老をおとしめるような言葉は、発する度に胸の内に痛みを覚える。それでも、若き主君は敢えてな物言いを心掛けた。


 だが、彼は昼間の決定を撤回するつもりはない。


「この城は、我が国から離れすぎている。統治はおろか守り抜くだけでも難儀だぞ」

 エルドフリームは、国境の要衝・アリアクから、250キロも旧ヴァナヘイム領に食い込んだ地である。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 周辺の中小豪族はもちろん服しておらず、ブレギアが軍を引き揚げれば、たちまち敵中に取り残される。いざ帝国の大軍が襲来したとしても、アリアクからの援軍到着まで相当な時間がかかろう。


「そのように厄介な城など、誰にくれてやっても問題はあるまい」

 ――そのように重要な城だからこそ、ブルカンに任せるのだ。

 危うく、レオンの口から建前に本音が混ざりそうになる。


「ここは先代国主様が攻略を諦めたほどの城塞です。宣伝効果としてもまだまだ利用価値は大きいものと思われますが」

 トゥレムは、食い下がった。


 筆頭補佐官は、主人の本音などとうに見通しているようだった。だが、この城塞の後始末に関しては、に終始する。


 ブレギア新国主の武名を五大陸へ伝播させる――広告塔にするため、エルドフリームは直轄地となさい。草原の土民などに下賜している場合ではありますまい、と。


 トゥレムは、どこまでも損得勘定余念がない。だが、こう毎度のことになると、レオンは胃もたれを覚える。



 主従の間で、しばらく同じようなやり取りが続く。それに終止符を打ったのは、辟易へきえきした若君の方だった。


 もう決めたことだ――それ以上は言うなと、レオンはトゥレムへ退室を命じた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


筆頭補佐官とのやり取りに、若君と同じく胃もたれを感じられた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「本音とは裏腹に 下」お楽しみに。

長らく続いた第3章も最終話となります。若きレオンの葛藤にもう少しだけお付き合いください。


金色の髪の若者は、湧き出ずる嗤いについて押し殺すのをやめた。


たちまち、それは哄笑となった。


レオンはのまま、土師器の破片が敷き固められた道を進み始める。

蹄がザク、ザクという乾いた音を立てる。破片がさらに細かいものになっていく。

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