【16-2】義挙と反乱 下

【第16章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)

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「むざむざ反乱軍の手に委ねてしまい、誠に申し訳ございません……」


 ノーアトゥーンの中央礼拝堂に置かれた帝国軍総司令部では、関堤や砦を奪われたロビー=フォイル准将が、居並ぶ幕僚たちを前に頭を下げていた。


 4月21日、彼の管轄下、もっとも手薄だったA砦が、最初に反乱軍の手に落ちた。


 破却を待つだけの砦になど、帝国軍は兵馬を籠めていなかった。


 いくら王都が手狭で、帝国の兵馬が収まりきらないとはいえ、街道から離れているうえに山腹にある砦など、勝手が悪すぎたからである。



 そのような砦を突然、正体不明の集団が占拠したとの報告が入っても、フォイル准将は当初、大して気に留めなかった。


 さては、山賊あたりが一時的に住み着いたものと、軽視していたのである。


 ところが、その翌日、が近接のB砦まで押さえたとの報告には、さすがのフォイルも慌てた。


 B砦は街道に比較的近く、ここを押さえられると物流に影響を及ぼすのだ。


 しかもの数は数千に及び、銃砲火器の類も多く保有しているという。従前より、両砦には火器・砲銃弾・保存食が込められていたままなのだが、それら軍需物資がヴァナヘイム国・軍務省次官の差配によるものと、帝国軍が把握するのは、もう少し先のことである。


 フォイルは急ぎ第1関堤を出撃し、B砦に向かったが、2つの砦の連携に戸惑っている間に、ガラ空きとなった関堤を奪われたのである。そこに残してきた多くの銃砲・弾薬・糧食とともに。



 事態を甘く見て、の全容把握を怠ったことに加え、両砦に守りを固める時間を与え過ぎたこと――重ねた悪手は、帝国側の局面を悪くする一方であった。


 准将は慌てて出撃元へ取って返し奪還を試みたが、彼の麾下3,000は、関堤に巧みに拠るによって散々に叩かれ後退した。


 何より、関堤上にヴァ軍のが翻った時点で、勝敗は決していた。











 「遠吠えする狼」の旗印に、帝国兵はたちまち戦意を喪失してしまったのである。






 干戈かんかを交えたフォイル准将は、帝国軍総司令部にて報じた。


 相手はなどではなく、ヴァナヘイム軍の元特務兵である。


 その数は少なくとも5,000を下らないであろう。




 そして、それらを指揮するのは、アルベルト=ミーミル退役大将である――。



 昨年末より行方をくらましていた、ヴァナヘイム軍総司令官の出現に、帝国諸将からはどよめきが漏れた。


 これまで、審議会にその身柄を引き渡すよう、再三圧力をかけてきた彼らであったが、いざその存在が確認されるや、驚きと興奮、それに恐怖など、それぞれが抱く感情は尽きず、ざわめきはしばらく収まりそうもなかった。


【15-5】人探し 上

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 それだけ、帝国東征軍は1年近く、この1人の男に悩まされ続けたといえる。



 かつて、ケルムト渓谷において猛烈な訓練に耐え抜いた兵卒が、不敗の名将の指揮下、旅団規模で展開している。


【10-7】 部隊運動訓練 下

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 帝国の二流将校に率いられた大隊など、苦もなく退けるであろう。



 再戦の機会を乞うフォイル准将に向けて、総司令官・ズフタフ=アトロン大将は静かにかぶりを振った。


 寡黙な老司令官に代わり、その脇にいたセラ=レイス中佐が口を開く。

「いえ、お疲れ様でした」


 この紅髪長身の先任参謀は、お前の手に負えるような相手じゃねぇしばらく待機してください、と准将に指示を出しつつ一言付け加える。

「ヤツらの身内を掃除するのに、我らの将兵が犠牲を払う必要はありませんから」



 この騒乱の鎮圧について、ヴァナヘイム軍へ委ねるという。急遽、彼らは討伐軍を編成したそうで、帝国軍は「お手並み拝見」と、高みの見物を決め込むそうだ。


 諸将のざわめきは、まだ落ち着いていない。時折、ミーミルという言葉が漏れ聞こえる。


 事情を理解しきれていないフォイルに対し、レイスは老司令官を通じて、改めて指示を出した。


 敗残兵について、砲兵を中心とする部隊に再編のうえ、中軍に合流するように、と。





【作者からのお願い】

「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


宜しくお願い致します。



「航跡」第1部は、あと少しだけ続いていきます。


遂に立ち上がったミーミルに期待いただける方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「正三角形 上」お楽しみに。


「たかだか小さな関所に、何を手間取っているのかッ」

オリアンが鉤鼻かぎばなを震わせ力強くテーブルを叩くと、敵味方の配置を示す駒が力なく散らばった。

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