【10-7】 部隊運動訓練 下

【第10章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 帝国暦383年7月、日の出前から日没過ぎまで、ヴァナヘイム国将兵の喚声やらうなり声やらが、ケルムト渓谷に響かない時間帯はなかった。


 峡谷は、猛り狂う陽光を遮り、帝国からの暴風雨のような砲弾を跳ね除けてくれる。おまけに飲み水がすぐに手に入ることなど、谷底にいるメリットははかり知れない。


 しかし、猛訓練に沈む将兵は疲労困憊であり、水を喉の先に流し込むことすら億劫おっくうになっている。


 腕立て伏せから走り込み、匍匐ほふく前進といった鬼のような基礎体力作りに加え、鉢巻の色に伴う状況対処や、隊別に求められる運動判断――。


 ミーミル流練兵は、体力はもちろんのこと、思考力も極限まで求められたのである。


 1日の訓練が終わると、将校・下士官・兵卒関わりなく、皆その場にへたり込んでしまい、会話を交わす気力もないようだった。そのままイビキをかいて眠り込んでしまう者も後を絶たなかった。



 そうした折、あれほど総司令官に反発していたオーズ中将・ブリリオート少将等、精鋭各隊も続々と谷底入りした。


【8-13】転用 下

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 彼等の加入により、の息苦しさに磨きがかかったことはもちろん、熾烈しれつを極めた白兵戦闘術では、続出する怪我人のなかで、ついに命を落とす者が出始めたのである。


【6-19】足蹴 下 《第6章 終》

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 満を持して、ヴァナヘイム軍は、ケルムト渓谷から打って出た。


 7月20日早朝からの攻撃によって、帝国軍右翼は潰滅したと言っていい。


 谷底での猛訓練の効果はてきめんだった。


 ヴァナヘイム軍の階段将校たちは、目の前で展開・推移する状況が信じられず、度々電話を通じて、戦況を確認し合っていた。


「なぁ、おい……何度も聞いてすまんが、俺たち」


「ああ、間違いない……俺たち」



「「……あの帝国軍に勝っちまった」」

 最後の一言は、興奮のあまりハモってしまっている。


【8-14】小骨 上

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***



 バー・スヴァンプ店内のきのこ型時計は、間もなく日付が変わることを示していた。


 階段将校の2人は、杯を手にしたまま気持ちよさそうにテーブルに突っ伏している。


 他の客は会計を済ませ、一組、また一組と店を後にしはじめていた。


 さすがのミーミルも、酔いが回ってきており、油断すると意識を失いかねない。



「明日、オーズ夫人に会う際、これだけは気を付けろ……」


「はい……」

 次官が何か大切なことを伝えようとしている――そうだった、明日は首飾りを返却しに行かなければ。



「そろそろ、店を閉めてもいいかい」

 バー・スヴァンプの女主人ママ・レリル=ボーデンのしゃがれた声に、ミーミルは意識を取り戻す。彼女は、チェイサーを人数分手際よく並べている。


 クヴァシルは全員分の支払いを済ませていた。ミーミルは、自らと部下たちの分を支払おうと申し出るも、次官は受け取らなかった。その代わり、左右で熟睡する奴らを何とかしろ、と言う。



 ママは、辻馬車も呼び寄せてくれていた。しかし、意識を失った階段将校たちを運び込むのは、男手3人――クヴァシル・ミーミル・御者――でも骨の折れる作業であった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ミーミル流訓練とその効果に興味を抱いてくださった方、

オーズ夫人はどのような人物か気になる方、

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階段将校たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「大陸一の英傑 上」お楽しみに。

かつて、これほど人気を博したヴァナヘイム軍総司令官がいたでしょうか。


「あれ、ミーミルじゃないか」「ほら、あの馬車のなかだよ」と小突き合っているのだろう、こちらに向けて、指をさしはじめる。


「ミ、ミーミル閣下ッ!?」「本当だ、総司令官閣下だ!」

それら酔っ払いたちが酒杯を片手に、女性たちがカップを置いて、馬車を追いかけはじめた。気づきと驚きは、辻から辻へ伝播していく。

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