【8-13】転用 下
【第8章 登場人物】
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【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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新総司令官・アルベルト=ミーミルの開陳された思考――失業者や囚人の兵員転化――に、軍務省次官・ケント=クヴァシルは、衝撃を覚えていた。
紙巻の灰を落とすことなど、失念するほどに。
だが、失業者や囚人の兵員活用も、それに劣らぬ奇想ではなかろうか。
もちろん、それを実行に移さんとすれば、閣僚たちは強硬に反対することだろう。
しかし、相次ぐ対帝国戦の敗北によって弱体化した現政権では、そうした不穏分子を抑え込んでいくことは早晩難しくなる。
既に現政権への不平不満を募らす失業者たちは、反体制派の温床となりつつあった。何より、為政者たちが恐れるのは、かつての政敵による意趣返しである。
それらの事情を踏まえ、帝国軍の手によってこうした頭痛の種を一掃できると、権力中枢に居座っている者たちに
自分たちの手を汚さなくて済むとなれば、閣僚たちは必ず乗ってくるはずである――と、ミーミルは臆さずに言う。
囚人や失業者たちの家族は、人質として王都・ノーアトゥーンに留めておく。
彼らも家族を戦場に連れて行くわけにはいかないだろう。「ヴァ国として家族の面倒をみる」とでも
「……非人道的だとおっしゃってもかまわないですよ」
さすがに新総司令官は、ばつが悪そうな顔をしている。
「こちとら、この戦況を『引き分けにしてくれ』と非人道的なことを頼んでいるんだ」
次官はゆっくりとかぶりを振る。
「お前さんを責める権利は、俺にはないよ」
若すぎる総司令官を前に、若い軍務次官はにやりと笑ってみせた。
***
新たに8万の兵を得たヴァナヘイム軍総司令官・アルベルト=ミーミルは、ただちにそれらを各部隊に割り振っていった。
特に攻防の要となるアルヴァ=オーズ中将、その配下フィリップ=ブリリオート少将等・左翼各隊には、合計2万を超える新兵を割り当てたのであった。それらは、体力的にも思想的にも特に甲種と目される者たちであった。
服役囚と浮浪者とはいえ、優秀な部類の者を最も多く割いたことは、猛将の自尊心を大いに満足させた。
それはミーミルにとってもプラスの要素となった。これまで頑なに拒んでいたケルムト渓谷への布陣移設に、オーズが応じる姿勢を示したのである。
彼としては、数多く割り当てられた新兵について、その練度を1日も早く高めねばならない。
だが、訓練を課そうにも、滞陣していた山の上では、ほとばしる陽光から逃れる場所が少なく、かつ大軍を展開するスペースが限られてしまう。
一方、谷底であれば、岸壁により日影を確保でき、狭いながらも河原が広がっており、調練に都合が良かったのである。
新兵を交えた訓練は、各部隊とも早朝から深夜まで連日続いた。
ミーミルが用意したプログラムは、部隊運動から敵陣突入まで、徹底して実戦を意識した激しい内容となっていた。
谷底から上空へと
【6-19】足蹴 下 《第6章 終》
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耐えられずに渓谷から逃亡していく者も少なくはなかった。
それでも、囚人は無罪放免のため、失業者は仕事を奪った帝国に一矢報いるため、そして、両者は無能な母国為政者への報復と王都に残してきた家族への想いを秘め、それぞれ厳しい訓練に耐え抜いたのであった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
帝国軍・セラ=レイスが狙っていたヴァナヘイム軍のウィークポイントも、オーズによる谷底への布陣移転によって潰えました。
【6-6】ポイントD 下
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ヴァナヘイム軍は着実に準備を整えていたのだな、と思われた方、
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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「【イメージ図】イエロヴェリル平原の戦い」を掲出します🗺
帝国軍右翼の壊滅。
「『兵士が生る樹』を育てていたのでは」と言わしめたほどのヴァ軍の急激な膨張。
それら、戦場の様子を掴んでいただけましたら、幸いです。
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