【16-3】正三角形 上

【第16章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)

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 ムール=オリアン新司令官率いる討伐軍ヴァナヘイム軍が、元特務兵による反乱の鎮圧に取りかかって、1週間が経過する。


 だが、王都の審議会へ戦果を報告できないでいた。


 反乱軍が拠った2つの砦と1つの関堤は、それぞれ15キロメートルという等間隔をもって位置している。


 各個撃破の好機――オリアンは、図上3点に散った配置を見てすぐに悟った。反乱軍は兵力の分散状態にある、と。



 ところが、反乱軍は、それら3点を有機的に連携させていた。


 討伐軍がA砦に攻めかかると、その背中や土手っ腹に、B砦および第1関堤から反撃を喰らわせてくるのだ。


 B砦に兵を向けると、今度は関堤、次いでA砦から打って出るという具合に、討伐軍を振り回し続けたのである。



 反乱軍は、兵力を分散などしていなかった。


 関堤と砦それぞれを見れば「分散」と見られがちだが、15キロメートル等間隔という絶妙な距離で結ばれた「3つの点」は、「1つの面」として機能していたのである。


 図上、この3点に線を引くと、正三角形が出来上がった。



 前軍務次官・ケント=クヴァシルが築かせた第1の関堤は、完成間近だったこともあり、堅牢だった。


 関所に拠る反乱軍の銃弾により、寄せ手の討伐軍は朱に染まり、折り重なるようにして地に倒れていく。


 反乱軍を構成するのは元特務兵だが、討伐軍にも出立前にかき集められた元特務兵が、少なからず含まれていた。


【16-1】義挙と反乱 上

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「たかだか小さな関所に、何を手間取っているのかッ」

 オリアンが鉤鼻かぎばなを震わせ力強くテーブルを叩くと、敵味方の配置を示す駒が力なく散らばった。


 彼は、相手ばかりが失業者や犯罪者の寄せ集めだと思い込んでいる。


 不甲斐ない戦果に苛立った討伐軍司令官は、オジエ=アヴァロン准将ほか幕僚たちを連れ、自ら関堤の視察に出向いた。



 そして、そこで愕然とする。


 彼らの目の前で、見慣れた旗――咆哮する狼が描かれた戦旗――が翻ったのである。



 道理で戦果が得られぬはずだ――オリアンたちは合点がいった。


 昨年、ヴィムル河で自分たちを救ってくれた部隊の戦旗は、先日まで自分たちの上官であった男の旗印は、見間違うことはない。


【2-12】機関砲

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 間の抜けたことに、帝国軍から遅れること2週間、ヴァ国の討伐軍首脳陣は、自分たちがあのアルベルト=ミーミルと戦っていたことをようやく知ったのであった。


【16-2】義挙と反乱 下

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 それは、帝国東征軍のみならず、ヴァ国審議会ならびに軍務省における情報統制の見事さ――皮肉にも、その裏返しと言えた。


 帝国軍は、ヴァ国の救国の英雄に再度敗れたことを隠すため、審議会は、帝国への切り札の存在を隠すため、軍務省は、その切り札に幽閉先から逃げられた失態を隠すため――それぞれが黙り込んでいた。



 こうして、オリアン以下討伐軍の首脳陣は、「反乱軍は指揮官不在の烏合うごうの衆」として、第1関堤と戦火を交わし始めたわけである。


 実情は指揮官不在どころか、この国随一の名将が采配を振るっていた。


 かの退役大将は、反乱軍によって拉致されたのではなく、軍部の監視から解放されたのだった。


 その脇をかつての幕僚たちが固めている。


 もはやこれは、一時的な「反乱」ではなく、「内戦」と表現した方が正しいのかもしれない。







【作者からのお願い】

「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


宜しくお願い致します。



「航跡」第1部は、あと少しだけ続いていきます。


事情を知らされずに戦場に向かい、ミーミルと対峙させられたオリアンが気の毒だと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


オリアン・ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「正三角形 下」お楽しみに。


曇天の下、討伐軍が崩れていく様子を、アルベルト=ミーミルは関堤の上から見つめていた。


その表情は、軍帽の目庇まびさしがつくりだす以上の影——虚無的なものに支配されている。


関上にたたずむミーミルの姿は、見る者が感動を覚える対象と化しており、仰ぎ見るスカルド=ローズル・シャツィ=フルングニル等元幕僚たちは、武者ぶるいを鎮められずにいた。

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