【16-4】正三角形 下

【第16章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)

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 曇天の下、討伐軍が崩れていく様子を、アルベルト=ミーミルは関堤の上から見つめていた。


 その表情は、軍帽の目庇まびさしがつくりだす以上の影——虚無的なものに支配されている。


「さすがは、ミーミル将軍だ」


「ああ、この国にこれほどの采配を振るうことのできる人物が、他にいるだろうか」


 関上にたたずむミーミルの姿は、見る者が感動を覚える対象と化しており、仰ぎ見るスカルド=ローズル・シャツィ=フルングニル等元幕僚たちは、武者ぶるいを鎮められずにいた。



 次々と撃退される討伐軍の様子だけでなく、先んじて帝国軍までが敗れていた事実は、新聞各紙により、またたくま間に五大陸へ広まった。


 救国の英雄が立ち上がったことに、ヴァナヘイムの民衆は狂喜した。




 5月8日、内務次官・ヘズ=ブラント以下、国政審議の間——帝国の砲弾を恐れて以来、宮殿の地下倉庫に移って久しいが——に集ったヴァナヘイム国首脳陣は、焦燥感にさいなまれていた。


【14-20】崩落 上

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 不平分子の巣窟そうくつたる反乱軍の指揮を、英雄・アルベルト=ミーミルが執る――彼らがもっとも恐れていた事態が生じていた。


 連日騒ぎ立てる新聞報道により、帝国軍においても末端の兵卒まで、ミーミルが立ち上がったことを知っているはずだ。


 しかし、意地の悪いことに、「アルベルト=ミーミルの身柄を引き渡せ」との催促が、帝国軍から止む気配はない。


「反乱軍どもを指揮しているのが、そのミーミルです」

 どうぞお納めくださいと、かの軍務省次官であれば言い捨てたであろうが、まさか審議会として公に回答するわけにもいくまい。


 審議会の場の全員が押し黙った。



 ミーミルはいま、関堤に籠り、A・B両砦の反乱軍を手足のごとく動かしている。


 一時は帝国軍を追い詰めた男の手腕を、審議会の者たちは1年近く見続けてきた。その間、彼の慎重な采配をしたり顔で批判してきた者たちは、いざその相手を務めることになり、桁違いの強さを思い知らされることになった。



 だが、ヴァナヘイム国為政者としては、圧倒されてばかりもいられなかった。


 帝国軍から治安維持を任されておきながら、反乱を鎮圧できずにいる。


 おまけに、ひた隠しにしてきたミーミルという最大の交渉カードを無くしたばかりか、あろうことかそれを反乱軍に拾われたのだ。


 この先、どのように揚げ足を取られるか分かったものではない。下手をすれば、帝国軍に軍事介入を許す口実にもなりうるのだ。


 「身内の騒乱など、自分たちで対処せよ」「お手並み拝見」とばかりに、帝国軍は高みの見物を決め込んでくれているが、いつ気分が変わってもおかしくはない。



 1日も早くこの反乱を収束させよ――5月9日早朝、討伐軍総司令部へ審議会から厳命が発せられた。


 反乱軍を屠るため、ヴァナヘイム軍総司令部にて大規模な作戦が発令されたのは、その日の午後のことであった。






【作者からのお願い】

「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


宜しくお願い致します。



「航跡」第1部は、もう少しだけ続いていきます。


都合よく利用してきたミーミルに、手も足も出なくなる……ヴァナヘイム国審議会について、自業自得ではないかと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「看破 上」お楽しみに。


焦燥感からだろうか、討伐軍は反乱軍に合わせて自らも兵力を分散するという、致命的な欠陥作戦を立案したのだった。


しかし、オリアンも馬鹿ではない。彼の講じた作戦は、両軍の現状を踏まえたものであり、反乱軍の行軍パターンを逆手に取るものでもあった。

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