【16-5】看破 上
【第16章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859538759970
【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330655586386797
====================
討伐軍司令官・ムール=オリアン中将が立てた作戦は、次のとおりである。
我が軍を3手に分ける。
1手をもってA砦を攻撃する。
A砦を救うべくB砦から出てきた敵兵をもう1手で喰い止めつつ。
関堤から出てきたミーミル本隊を、待ち伏せしていた残りの1手で包囲・殲滅する――。
焦燥感からだろうか、討伐軍は反乱軍に合わせて自らも兵力を分散するという、致命的な欠陥作戦を立案したのだった。
しかし、オリアンも馬鹿ではない。彼の講じた作戦は、両軍の現状を踏まえたものであり、反乱軍の行軍パターンを逆手に取るものでもあった。
正確な数は掴めていないものの、討伐軍ではこれまでの戦闘から、反乱軍の概ねの数字を把握できていた。
両砦にそれぞれ1,500、関堤にミーミル以下主力3,500と、予想以上に多くの元特務兵が籠っているようだ。
一方、ヴァナヘイム軍の総勢は、数こそ1万2,000を維持していたが、その質はいよいよ低落していた。
帝国から保有を許された常備兵1万と、緊急事態につき、搔き集められた応召兵(元特務兵)2,000で討伐軍は王都を発った。
元特務兵は、そのすべてが反乱軍に参加したわけではない。帝国軍に使役されることを嫌い、特務兵団解散後は、ノーアトゥーンの路上に無為に過ごしてきた者たちも多かった。
審議会は、国庫からなけなしの金銭を放出し、それらを無理やり組み込んだのである。
ところが、正規兵・応召兵の混合から成る討伐軍は、ミーミルの変幻自在な用兵の前に、早くも2,000名近い死傷者を出してしまったのであった。
やむなく、その穴埋めとして、王城守備隊――シグニュー=ノルデンフェルト女中佐以下、宮殿ほか王族の身辺を守る女性兵――まで駆り出されることになった。
将官不足のため、前線参加を余儀なくされたエーミル=ベルマン臨時尚書が、王都を発つ際、それら女性兵2,000を率いて行くことになったのである。
それだけ大きな犠牲を払った分、討伐軍首脳部にとっても収穫はあった。
2砦1関所の反乱軍に、一定の行軍パターンがあることを分析できていたのである。
すなわち、一方の砦の外に兵馬を展開し、討伐軍を誘引する。
誘いに乗った討伐軍が砦に肉迫するも、山腹のため大軍の展開に手間取ってしまう。
そうこうしている間に、もう一方の砦から兵が飛び出し、寄せ手の脇腹を崩すのである。
そして、頃合いを狙って、関堤から主力が突出し、崩れた寄せ手を払うというものであった。
討伐軍・オリアン中将の講じた今作戦は、そうした反乱軍の行軍パターンを逆手に取るものでもあった。
肝は、関堤から出てきた反乱軍主力を確実に包囲殲滅することである。
しかも相手はあのミーミルだ。不測の事態に備え、十分な数の兵馬で待ち伏せしなければなるまい。
そこで、オリアンは、待ち伏せ部隊に関堤の兵馬の2倍・7,000を割いた。
さらに、B砦の抑えに2,000を用意し、脇を揺さぶられても、簡単には崩されない備えを講じる。
差引き、A砦への寄せ手は3,000となる。そのA砦攻撃隊の指揮は、オリアン中将自らが受け持つことになった。
小規模な討伐軍とはいえ、司令官が少ない兵力で寄せ手を担うことについて、オジエ=アヴァロン准将をはじめ、幕僚たちからは慎重論が唱えられた。
だが、もはやヴァナヘイム軍には、一軍を任せられるほどの将官がほとんどいない。
復帰直後のエーミル=ベルマン臨時尚書すら、今作戦のため、王城守備隊を率いて参陣している。
【16-1】義挙と反乱 上
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428443022150
それに、
「確実にミーミルを
と、作戦立案者であるオリアンは譲らなかった。
少ないとはいえ、寄せ手は砦の2倍の兵力である。
司令官が直接指揮することに、再考を促したアヴァロン等も、その比率を再度認識することで、最後は納得したのであった。
一方で、アヴァロンが任された待ち伏せの兵7,000は、とかく隠密性が必要とされた。
ミーミルにその存在を気が付かれたら、彼は関堤に引き返してしまうだろう。2砦1関堤が、それぞれ守りに徹してしまえば、作戦は機能せず、
討伐軍としては、いよいよ手詰まりとなろう。
そんな訳で、ベルマン臨時尚書は、率いてきた王城守備兵2,000とともに、B砦への抑えを受け持つことになった。
臨時尚書以下、王宮女性兵が派手な動きでB砦に備えることで、アヴァロン以下待ち伏せ兵馬の
【作者からのお願い】
「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
宜しくお願い致します。
「航跡」第1部は、あと少しだけ続いていきます。
オリアン中将の積極的な作戦について、行く末が気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
オリアンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「【イメージ図 ①】ノーアトゥーン郊外の戦い」お楽しみに。
今話におけるオリアン中将の作戦が少々複雑なため、図面をもって解説いたします。
読者様からご好評の解説シリーズも、この会戦が最後になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます