【16-1】義挙と反乱 上

【第16章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)

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 帝国暦384年4月19日、ヴァナヘイム軍の元特務兵たちは行動を起こした。


 郊外の湖荘に幽閉されていたアルベルト=ミーミル退役大将をすると、王都の南で破却の順番を待っていた第1関堤と2つの砦に、わずか数日のうちに立て籠ったのである。


 このような軽挙が成功した理由として、ヴァナヘイム国内に、元特務兵と思いを同じくする者たちが、数多く存在したからに他ならない。


 帝国将兵が我が物顔で振る舞うなか、「『救国の英雄』にもう一度立ちあがって欲しい」と望む声が、ヴァ国の世論の大半を占めていたのであった。


 そのため、民衆は彼らの「義挙」を率先して後押ししたのである。



 7カ条におよぶ和議の条件のうち「特務兵の解散」に反する行為だとして、ただちに帝国側はヴァナヘイム国・審議会へ圧力を強めた。


【14-17】安逸 2

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 帝国弁務官事務所に首根っこを押さえられた審議会は、内務省次官・ヘズ=ブラントが切り回していた。王都から逃げそびれた為政者たちのなかで、省庁序列・階級・年齢において彼が最上であったからだ。


 階級・年齢だけなら、農務相・ユングヴィ=フロージの方が上となるが、省庁序列では、農務省は内務省の後塵こうじんを拝するのである。



 ミーミル退役大将という、帝国に対する最大の交渉カードを紛失したなど、あってはならない失策である。


 ブラントは口封じすら辞さず、峻厳に対処した。


 おかげで、ミーミルが湖畔の官舎から姿を消した件については、審議会および軍務省のごく一部が把握するという、情報封じ込めに成功した。



 同時に、彼は軍務省に向け、ただちに討伐軍を編成し、関堤と砦の攻略に取りかかるよう発議し、審議会において可決された。


 保有を許されていた正規兵1万だけでは、心もとなかったのだろう。軍務省は、軍備拡張について審議会へ、次いで帝国軍へ裁可を求めた。


 この要請が承諾される可能性は、低いものと見られていた。ヴァナヘイム軍の保有戦力を厳しく制限してきた帝国側が、必ず申請を却下することだろう、と。


 ところが、大方の予想に反し、弁務官事務所はあっさりとそれを許可した。胸をなでおろしたブラント等は、帝国側の気が変わる前に行動を起こす。


 しかし、現為政者たちは創造力を著しく欠いた――もとい、あれほど反発した軍務省次官の前例を踏襲した。反乱を一刻も早く鎮めるため、審議会はなりふり構ってはいられなかったのだ。


【8-11】転用 上

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 路上生活に戻っていた失業者や犯罪者たち――反乱に加担していなかった元特務兵――に多額の給金をちらつかせ、戦力に組み込むことにしたのであった。


 こうして、討伐軍は元特務兵2,000の加入について、目途がついたのである。



 だが、審議会の準備は、片手落ちと言えた。軍部は兵卒だけでなく、将校クラスの人材も枯渇していたからだ。


 軍務省では、他の省庁と同じく、トップたるヴァジ=ヴィーザル尚書が北の自領・ヴイージに逃亡していた。


 おまけに、次官・ケント=クヴァシルは、往来で遭難して以来、行方も知れない(審議会側では、そのまま死亡したものと処理されている)。次官遭難後、彼の息がかかった省内の者たちも、ことごとく要職を外されていた。


 軍の現場では、帝国軍の干渉を恐れた審議会によって、アルベルト=ミーミルは拘禁され、その幕僚たちはみな閑職へ追いやられていた。


 降伏勧告受け入れの折、総司令官とその幕僚たちを追い払ったのは結構だが、帝国との戦いを通じて、アルヴァ=オーズ中将ほか主だった将軍たちはほとんどが戦死している。


【13-21】悲報

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【15-4】散歩 下

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 旅団規模のまともな編成を維持しているのは、ムール=オリアン少将くらいのものだろう。


 他の目ぼしい将官といえば、戦傷療養中のエーミル=ベルマン中将ぐらいであった。


 帝国砲兵に攻囲され、オーズ・ブリリオート・ヘイダル等、多くの将兵が戦死したストレンド郊外から、ベルマンは傷を負いながらも奇跡的に生還していた。


【13-21】悲報

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 軍務省では、ベルマンを大将に昇進させ、尚書代理に就任させることにした。


 口髭を整えた教養ある将軍は、砲弾の破片を左腕に浴びていたが、静養している暇は与えられなかった。


 軍の現場では、オリアンを中将に昇進させ、討伐軍司令官に就任させることにした。まとまった戦力を保有するという理由だけで、かぎ鼻将軍は貧乏くじを引かされることになった訳である。



 これらの人事に、国王・アス=ヴァナヘイム=ヘーニルがしたことは、2枚の辞令に国王印綬を捺印し、両名にそれぞれ手渡しただけである。


 もはや御下問する気概も喪失した様子だった。


 こうして、両名の将軍は審議会の指示に従い、「反乱軍」鎮圧のため、重たい腰を上げたのである。







【作者からのお願い】

「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


宜しくお願い致します。



「航跡」第1部も最終章に入りました。

ここまで長らくお付き合いいただき、ありがとうございます。


「航跡」はあと少しだけ続いていきます。


兵力不足に人材枯渇のヴァナヘイム軍が反乱軍にどのように挑むのか気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


紳士・ベルマンや鉤鼻・オリアンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「義挙と反乱 下」お楽しみに。


「むざむざ反乱軍の手に委ねてしまい、誠に申し訳ございません……」


ノーアトゥーンの中央礼拝堂に置かれた帝国軍総司令部では、関堤や砦を奪われたロビー=フォイル准将が、居並ぶ幕僚たちを前に頭を下げていた。


フォイルは急ぎ第1関堤を出撃し、B砦に向かったが、2つの砦の連携に戸惑っている間に、ガラ空きとなった関堤を奪われたのである。そこに残してきた多くの銃砲・弾薬・糧食とともに。

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