【13-21】悲報

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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「ブリリオート少将、戦死なさいました」



「ベルマン隊と通信途絶」









「オーズ中将……あえないご最期」





 11月13日、冷雨降りしきるドリス城塞には、俄かに信じられないような報告が次々ともたらされていた。


 同城塞には、第1・第2師団と別れた総司令官・アルベルト=ミーミル大将麾下や、ヨータ城塞を引き払った副司令官・スカルド=ローズル中将麾下が入城している。


 それにしても、わずか半日で、主力部隊が総崩れになったというのだ。驚嘆すべき一報に接し、ヴァナヘイム軍総司令部の幕僚たちは、建物から飛び出したまま、総立ちになっていた。


「オ、オーズ中将が戦死されただと……?」


「何かの間違いではあるまいか」



 いつものような独断専行のはずだった。


 今回も彼らは戦果を引っ提げて、ここドリスに引き揚げてくるはずではなかったか。誇らしげな表情を浮かべて――。


 大体、あのアルヴァ=オーズが、この国一の猛将が、易々と討たれるはずがなかろう。


「そ、それが、帝国軍の野砲の一斉射によって、部隊ごと粉砕され……」

 降雨は弱まる気配を見せない。斥候兵は、雨と汗と涙でぐちゃぐちゃになった顔を、石畳に押し付けるようにして報告した。


 小高い山々に累々と設けられた帝国軍の砲陣――第1師団はそこに挑み、その第2陣まで突き破ったところで、前進が止まったそうだ。


 帝国軍のどの野砲が放った砲弾かははっきりしない。後方の砲陣が、遮二無二放った運命の一弾――それが、第1師団の「心臓」へ直撃したためである。


 この国随一の破壊力を持つ「二枚の斧」をもってしても、「わしの翼」を削ぎ落すには至らなかった。



「一斉射だと?敵野砲は20門か30門か。数は正確に報告せよッ」

 参謀長・シャツィ=フルングニルが語気を強める。あの猛将は、殺しても死なぬとでも言いたげに。


「そ、その数……ひ……」


「数はどうしたッ」

 参謀長は、飾緒を揺らしながら詰め寄る。



「ひ、ひゃくごじゅう門はあろうかとッ」


「ひゃ、150だと!?」


 伝令はやけくそに返答し、たしなめた参謀長の声が上ずる。




 ――やはり、始まっていたか。

 総司令官・アルベルト=ミーミル大将は、低くうめいた。


 帝国軍は、反撃の準備が整ったのだ。先に壊滅したアッペルマン隊も、同じようにしてミュルクヴィズの街ごと粉砕されたのだろう。



 ヴァナヘイム軍総司令部では、「帝国軍が相当な数の砲を戦場に投入する」との情報を直前に掴んでいた。それがゆえに、作戦発動直後、その中止と引き揚げを各隊に伝達したのである。


【13-17】朝令暮改

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 実際に、帝国によって投入された砲門とその重厚な構えは、彼等の想像をはるかに上回り、ヴァ軍は主力とその指揮官たちを一度に失った。


 かつてのように、自身が出向いてでも、オーズたちを止めるべきだった――ミーミルは悔やんでも悔やみきれない。


【4-19】裸踊り ⑤

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 これまで、帝国軍がひたすら鳴りを潜めていたのは、本国から大量の野砲と砲兵が到着するのを待っていたためか。


 その帝国の後方を散々かき乱してくれたブレギア軍は、理由は定かではないが、既に撤退を終えているという。


 帝国軍が、それだけの数の野砲を無事に前線まで輸送できたのも、彼らによる補給路妨害がなくなったことを証明している。



 そうなのだ。もはや、騎翔隊による後方撹乱かくらんは期待できないのだ。


 つまり、ヴァナヘイム軍は、主力を失ったうえに隣国のたすけなく、圧倒的な物量に物を言わせてくる帝国軍とぶつからねばならなくなった。


 彼我の戦力差は、ミーミル着任以前の状態よりもはるかに分が悪くなったと言えよう。



 ミーミルは腕を組み、瞑目した。


『夫が必ず打ち払ってくれると信じておりますもの』


【10-14】 寂しさと照れくささ

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 ミーミルの脳裏に、オーズ夫人の少女のような容姿が思い浮かぶ。


 その表情は、寂しさと照れくささを同時に取り込んだような、微笑みをたたえていた。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ミーミルたちの乗った船は進まねばなりません。

オーズ等、亡くなった将兵たちの冥福と、同夫人等、残された遺族の幸先を祈りつつ、ヴァナヘイム軍の今後を見守っていただけたら、嬉しいです。



【予 告】

次回、「後備え 上」お楽しみに。


総司令官・アルベルト=ミーミルの決断は、またしても早かった。

「これまで取り戻した城や街はすべて放棄。残存兵力をもって退却し、再びケルムト渓谷の守りを固める」


ヴァ軍は主力を失った。だが、攻略・占領のため、イエロヴェリル平原の各都市に向かった兵馬を糾合きゅうごうすれば、まだ7万ほどのまとまった戦力になる。

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