【10-14】 寂しさと照れくささ
【第10章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429411600845
【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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オーズ邸応接間の話題は、
大きなテーブルには、封筒や通信筒の山が築かれていた。
その多くは、リンドやヴィジーに居る、フレイヤの友人たちからのものだった。帝国軍が迫るなか、北方諸都市へ疎開しているのだという。
そのうちの1通を、彼女は取り出す。
「そういえば、夫から届いたばかりの手紙に、総司令官閣下について書かれていました」
戦場に長らくとどまっている夫・アルヴァ=オーズ中将からも、頻繁に手紙が届くらしい。意外にも、あの猛将は筆まめのようだ。
天幕内の小さなテーブルに巨躯を
だが、ミーミル一行は動じない。彼等は、この屋敷に来て以来、意外・想定外の事象に遭遇し過ぎてしまい、ちょっとやそっとのことでは、驚かない耐性がついてしまったようだ。
「中将閣下は、総司令官閣下に対して、何と……」
ビル=セーグ少佐が、夫人に先を促す。
初めの頃は――そうね、5月くらいのことだったかしら、と前置きしてから、夫人は、猛将の口真似をする。
「
夫人の愛らしい顔と、物騒なセリフが、どうにも調和が取れていない。
「……久しぶりに帰ってきたと思ったのに」
ずっと怒ったままで……すぐ出て行っちゃった、とフレイヤは口を
謁見の大広間、そして水の庭園で、立て続けに任命式が行われた直後のことに違いない――副司令官・参謀長・階段将校たちは、一様に総司令官を見やる。
ミーミルは、居たたまれない気持ちになった。
【4-3】任命式 上
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【4-11】任命式 再び
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しかし、そんな夫の様子が大きく変わったのだと、フレイヤは言う。ここを見てちょうだい、と彼女は封筒のなかから1枚の
その1枚を、女使用人が、テーブル向こうのミーミルの前に運ぶ。
またしても意外ながら、中将の筆致は、小さく可愛らしいものだった。
冒頭部分の
しかし、書き手の気分の浮き沈みによって、筆致も大きくぶれてくるものらしい。可愛らしかった丸文字も、戦場に挑むくだりでは荒々しさがもたげてくる。まして、自分について書かれている個所などなおさらだ。
「あの若造は、なかなかやりおる」
感情のままに書き殴ったような中将の字は、
しかし、ミーミルはその1行に、いつまでも見入っていた。本心から嬉しかったのだ。
オーズ夫人は
「先日差し上げた葉巻は、お口に合ったかしら……」
煙草がお好きだと聞いていたけど、ここではいつもお吸いにならないの――首をかしげるフレイヤを見て、ミーミルは思わず苦笑する。
ヘビースモーカーの次官殿がここに座り、奥方の機関砲トークに圧倒されながら、煙草を我慢している姿を想像したからであった。
オーズ邸の滞在時間も3時間を回ると、ミーミルはフレイヤの境遇を思いやることが出来るようになっていた。
戦乱の空気が渦巻くなか、夫は4ヵ月近く戦場に向かったままである。また、親しい婦人仲間や多くの召使いたちは、帝国軍を恐れて北の諸都市に避難してしまった。
そうしたなか、軍務省次官は、彼女にとって数少ない茶飲み仲間なのだろう。しかし、その次官殿も職務に忙殺され、このところなかなか来訪がかなわない。
友人に弟分の来訪が途絶えたこの大きな屋敷で、わずかな使用人たちとともに、彼女は夫の帰りを待っている。食糧不足により、大好きなお菓子にもなかなかお目にかかれない生活に耐えつつ――。
「奥方様は、北の街へ避難されないのですか」
自然とミーミルの口をついてでた質問に、フレイヤはきょとんとした表情になる。
「どうして、そのようなことをお聞きになるのですか」
「北方の各都市には、ご友人が居るのでしょう。それに、あなたも帝国軍が恐ろしくはないのですか」
「……」
フレイヤは黙り込んだ。
だが、さして時間を要さず、彼女は返答する。
「……夫が必ず打ち払ってくれると信じておりますもの」
寂しさと照れくささすら取り込んだような、この日一番の微笑みを浮かべて。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
フレイヤの
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「おでこ《第10章終》」お楽しみに。
ラッパ状の袖に隠れていた彼女の小さな手が、片手だけだが再びはっきりと姿を現した。
形良く戦端が鋭利な爪が、ミーミルの顔を狙う。
「「閣下ッ!?」」
階段将校たちが駆け寄るも、奥方の手の動きの方が速かった。ミーミルは身構え、思わず、両目をつむる。
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