【10-15】 おでこ 《第10章終》

【第10章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429411600845

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 フレイヤは、玄関までミーミル一行を見送った。名残惜しそうに。


 エントランスホールに降りたミーミルたちは、軍帽を正しくかぶり、純白の上下もきちんと着こなしている。ホールの先、車止めには迎えの馬車が停車していた。


 馬車に乗り込もうとした彼らに対し、フレイヤが、あ、という表情を浮かべ、呼びかけてきた。

「閣下、1つお伝えし忘れておりました……」


「はい、どうされました?」

 ミーミルは微笑したまま、彼女に近づく。


「あ、あのですね」

「……?」

 もじもじとする奥方に言葉をうながそうと、ミーミルは膝を折り、同じ目線になる。子どもに対して大人がとる姿勢そのものだ。


「泥棒さんたちにお伝えください……」

 オーズ夫人は、首飾りを盗んだ窃盗団に何かを伝えてほしいらしい。


 軍服5人組は、ハッとした。


 ラッパ状の袖に隠れていた彼女の小さな手が、片手だけだが再びはっきりと姿を現したからである。


 形良く戦端にかけて鋭利な爪が、再びギラリと光り、そのままミーミルの顔を狙う。


「「閣下ッ!?」」

 階段将校たちが駆け寄るも、奥方の動きの方が速かった。ミーミルは身構え、思わず、両目をつむる。










「めっ!」

 フレイヤの小さな指の腹が、ミーミルのおでこに優しく当てられた。



 総司令官の軍帽が、音もなく背後に落ちる。


 代わりに、「きゃるん」という音が、玄関ホールに響いたような気がした――。



 唖然とした表情を浮かべたミーミルの脳裏に、昨晩のバー・スヴァンプにおける次官の言葉が蘇る。

「奥方にオデコを触られないように、くれぐれも気を付けろ――」


 彼女の、お気に入りのサインとのことらしい。




「また、いらしてくださいね、閣下」


 頭を下げる使用人たちの真ん中で、奥方がニコニコと手を振っていた。


 どうやら、ミーミルはフレイヤに気に入られてしまったらしい。



 帰りの車内で、会話が交わされることはなかった。


 5人とも、ぐったりとした様子でシートに体を預け、馬車に揺られるままになっていた。


 それだけ、オーズ夫人の存在は圧倒的だった。


 こんなことなら、代議士相手に記念撮影していた方が、まだ楽だったのではないかと、階段将校たちは思ったが、軍務省次官に対する不平を口にする気力も起こらない。



 そんな彼らは、共通する疑問を1つだけ抱いていた。奥方様のお歳も気になるところだが、女性に年齢を尋ねるのは無粋というものであろう。


 それよりも、誰もが脳裏に反芻はんすうしてしまう、あの擬態語。





 ――「きゃるん」って何だ?







第10章 完

※第11章に続きます。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。

第10章も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


今章を通じて、猛将アルヴァ=オーズを見直された方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回からは、第11章「リスタート」が始まります。


フェイズは、穏やかなヴァナヘイム国の王都から、ミーミルに惨敗後、殺伐とした雰囲気に沈む帝国軍へ。


時間軸としては、物語の冒頭を飾った「序章」に追いつきます。


【 序 】

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ミーミル率いるヴァナヘイム軍に惨敗を喫したも、後手に回り続ける帝国軍。


帝国軍総司令官ズフタフ=アトロンは、敗北を重ねる東征軍をどのように立て直すのか。一人娘を戦場で失った彼の決断にも、ご注目ください。

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