【13-17】朝令暮改

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

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「すぐに引き揚げよとのことですッ!」


「馬鹿な、作戦は始まったばかりだぞ!?」


 11月9日曇天下、ストレンド城塞のはるか手前にて――ヴァナヘイム軍伝令兵は、アルヴァ=オーズ中将の不機嫌極まりない表情と声によって詰め寄られていた。


 この度のドリスへ後退・陣容再編の決断ですら、大いに不満を抱えていた中将である。あの若造はまた、各軍の勢いに水を差そうとするのかと言いたげであった。



 ミュルクヴィズにおけるアッペルマン隊の壊滅を受けて、ヴァナヘイム軍総司令官・アルベルト=ミーミル大将は、エドラを捨てドリスに引き揚げる決断を下した。


 グンボリ発・エドラ経由で押し寄せて来るであろう帝国本軍を、イエロヴェリル平原・南の入口にて迎え撃とうというわけである。


 ところが、撤退の途中、ストレンド城塞のリーグ=ヘイダル少将より、帝国軍の攻撃を受けつつあるとの報告がもたらされたのであった。


 ストレンドを奪われ、平原の南端に孤立することをミーミルは危惧きぐした。


 そこで、自らの中軍と残りの各隊は引き続きドリスへ進めつつも、オーズ・ベルマン・ブリリオートといった第1・第2師団を、同城塞の救援に差し向けたのである。


 兵力の逐次投入を避け、主力をもって一挙に制しようという――の総司令官らしからぬ決断は、将校たちに受け容れられた。


【13-12】正規兵と特務兵 中

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 それなのに、総司令部より後から派遣され、息せき駆け込んできたこの伝令は「作戦行動はすべて白紙撤回し、すみやかに中軍と合流せよ」という。


 ヴァナヘイム軍各隊が、作戦行動を開始して3日と経っていなかった。



 曇天は、遂にこらえられず雨滴をこぼし始めた。


「いかなる仕儀にて、朝令暮改に立ち至りたるか」

 頬にかかる細雨の冷たさも、オーズの感情を逆撫でしているのだろう。


 歴戦の猛将にすごまれ、伝令は思わず馬の背に飛び乗り、この場から逃げ出したい気分に襲われた。


「『……帝国軍は、従来にない規模の野砲を再び戦場に投入しようとしている』との情報を総司令部はつかみました」

 不愉快さを全身であらわす中将に、若い伝令は臆しながらも、自らと愛馬をなだめ総司令官からの命令を伝えきった。


 ヴィムル河流域の村落ごとドーマル大将を、ミュルクヴィズの街ごとアッペルマン少将を、それぞれぎ払った戦法――それに磨きをかけて、この先、帝国軍は待ち構えているという。


【4-4】任命式 下

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【13-11】正規兵と特務兵 上

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 しかし、それを伝え聞いたオーズ、ベルマン、ブリリオートといった将軍たちは、お互いに顔を見合ったあと、大きく吹き出し笑い合う。


「まぁた出たぞ、うちの総大将の心配性が」


「3日ごとに作戦を修正するなど、聞いたことがない」


「やれやれ、『軍神』の本性がこんな小心者だと分かったら、民衆はどれだけ落胆することでしょうな」


 ロニー=マルデル准将ほか、オーズ麾下の将校たちもそれに唱和しょうわする。



 ひとしきり笑い終えると、彼等は馬上に戻ってしまった。


 追いすがる伝令に向けて、オーズは大きな口を開く。

「総司令官閣下に伝えい。『我ら一戦して敵をほふったのちに、そちらに合流いたしまする』と」


「し、しかし、それでは……」


 分からんか――そう言いたげに、オーズは頭をゆっくりと振る。


「ストレンドを守るヘイダルは、わしの甥だ」

 ヴァナヘイム一の猛将の右目元には、大きな傷がある。だが甥の身を案じる言葉を発した刹那、その瞳に宿った光は温かく優しいものだった。


 立ちつくす伝令兵をその場に残し、将軍たちはそのまま馬を進めていった。



 この伝令兵は、猛将の瞳について生涯忘れることはなかった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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【予 告】

次回、「二枚斧 上」お楽しみに。


濡れそぼった「二枚斧」の戦旗の下――ヴァナヘイム軍・第1師団指揮所の天幕内では、同師団長・アルヴァ=オーズ中将が手紙を書いていた。


『作戦は長引く様相を呈しておるが、年明けには必ず帰るゆえ……』


ヴァナヘイム軍一の猛将の意外な側面は、「筆まめ」と言えるだろう。これまでも、遠い戦場から度々文をしたためては、王都・ノーアトゥーンの奥方宛に発送してきた。

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