【4-4】任命式 下
【第4章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428756334954
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「どうして私なのです。各所で帝国軍に敗れたとはいえ、まだほかにも先輩の将軍が――」
「お前で駄目なら、もうこの国はおしまいだよ」
寝癖の軍務次官の言葉には、聞き手に二の句を継がせぬ重みがあった。
ヴァナヘイム国は、帝国相手に連戦連敗を重ねた。
それも、戦死、戦傷、次いで帝国側に捕縛など、わずか1年間で総司令官を3回も入れ替えざるをえない有様であった。
4人目・ヤンネ=ドーマルも2週間前、前線の総司令部ごと消息が途絶えている。
ヴァ軍は累計20万人を超える将兵の死傷者を出していた。
また、各領主による横流しが
郷里で傷病を癒やしている者たちは、とてつもない数に及んでいたが、行方知れずの逃亡兵も敗北の度に増え続け、その数は10万人を超えている。
もはや、各部隊は戦線を維持することすらおぼつかなくなりつつあった。
「帝国軍は70門近い大砲を一挙に集中させ、村ごと我が軍を粉砕しちまったんだとさ」
「村ごと……」
ミーミルは、
――脇役に過ぎなかった砲兵をまとめて運用することで、主役の騎兵、歩兵を屠ったというのか。
それにしても、70門もの火砲を一戦場に集中させるとは、なんというスケールの大きさだろう。帝国の国力を、いまさらながらミーミルは思い知らされた。
彼は先のヴィムル河流域会戦に参加していたものの、ドーマル総司令官の不興を買い、最後尾に置かれていた。
そのため、最前線の様子を把握できないまま、退却戦に奔走させられることになったのである。
戦場経験によって培った勘だろうか。渡河後ずっと抱いていた彼の懸念は、的中する結果となった。
一番最悪の形で。
独自の判断で、進軍とは真逆の方向に測量チームを走らせ、ヴィムル河の渡渉ポイントを把握しておいたことは、彼の麾下だけでなく、オリアン隊など多くのヴァナヘイム将兵を救った。
――総司令官閣下は、かように無残なご最期を迎えられていたとは。
ミーミルは、思わず瞑目した。
村ごと粉砕されたわけである。村落の中央に居たドーマル大将は、肉片程度しか残らなかったことだろう。
強くお
この戦闘のあと、ヴァナヘイム国では、領民に対してはもちろんのこと、軍部においても
佐官以下の前線指揮官にすら、事実を
1万6,000人もの死傷者を出した上に総司令官が行方不明など、将兵の士気にかかわる――理屈は分かるが、文官や代議士が幅を利かせる審議会主導の統制に、クヴァシルは心底気に入らない様子であった。
「ハナッから、帝国と喧嘩して勝てるわけがなかったのだが……」
寝癖の次官が言うとおり、この国の民衆はもちろん、指導者たちまでも、帝国の力を見誤った。
隣国のブレギアが――この国より歴史ははるかに浅く、馬以外ろくな産物のなかった弱小国が、帝国軍相手に1度だけでなく、2度3度と立て続けに勝ちを収めたことは、大陸中の国々を
「斜陽の帝国」
「帝国の残光、かつての輝きなし」
各国の新聞記者たちは、約400年という長きにわたって5つの大陸と7つの海を支配してきた帝国の弱体ぶりを嘆き、薄れゆく帝国秩序を懐かしむようになった。
それに呼応するかのように、北のステンカ王国など、帝国に抑圧されてきた地域では、各所で反旗を翻した。
ヴァナヘイム国も、そうした時流に乗り遅れまいとした。
100年以上にわたって、王都ノーアトゥーンに存在を許してきた帝国大使館を襲い、大使以下その関係者を殺害することで、反帝国の旗を揚げたのである。
ヴァナヘイム最強と評され、激発しやすい民族性を最も併せ持った部隊――アルヴァ=オーズ隊――の暴走であった。
「この国の指導者たちが判断を誤った最大の点は、隣国にあって、この国にないもの――ブレギア宰相・キアン=ラヴァーダ――の存在を忘れていたことだな」
そう言いながら、軍務次官はぼさぼさの後頭部を片手でひとなでした。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ヴィムル河流域会戦でのミーミルの奮戦を思い出された方、
ブレギア宰相が気になる方、
ぜひこちらから🔖や⭐️をお願いいたします
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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「【世界地図】航跡の舞台」を掲出します。
帝国東岸領、ヴァナヘイム、ブレギアの位置関係をざっくりと押さえていただけたら嬉しいです。
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