【13-16】臆病者 下
【第13章 登場人物】
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【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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ヴァナヘイム軍では、戦闘を重ねるごとに、総司令官を「臆病者」呼ばわりする声が大きくなっていく。
それどころか、「戦果を挙げた以上は罰せず」という、ヴァ軍の古き戦場慣習をいいことに、将軍たちによる軍令違反とも取られかねない独断専行が、そこかしこで見られるようになっていた。
2か月ほど前――先述のドリス攻防戦では、総司令部から過剰に派遣された斥候より、帝国軍の
ところが、城塞攻略の指揮を振るうアルヴァ=オーズ中将は、その命令を黙殺した。
ヴァナヘイム軍の猛将は、帝国軍の援軍が到着する前に、力任せに城塞の守りをねじ切って見せたのである。
「総司令官がいなければ、いまごろ我が国の領土から帝国軍を駆逐できていたであろうものを」
エーミル=ベルマン中将などは、整えた口髭の奥で
こうした各将軍の独断専行が、結果としてヴァーラス城をはじめとするイエロヴェリル平原の諸都市の奪還という結果になった。
それは、軍務次官・グヴァシルと、総司令官・ミーミルが描く「講和の為の勝利」の枠を超えた、行き過ぎた戦果でもあった。
民衆は戦勝に沸いた。
それはもう、叫び出したいほどに。
ヴァナヘイム国内におけるアルベルト=ミーミルは、「生ける軍神」として、民衆の崇拝の対象になりはじめていた。将兵の反発を招きつつあることについては、彼らの
この青年のおかげで、ヴァナヘイム国に重く長くのしかかっていた暗雲が、一挙に吹き飛んだのである。
息子を失った母や夫を失った妻は、悲しみを打ち消すように勝利の陰で涙を
だが、肉親を直接失わなかった者たちは、生命・財産の安堵を得るや、持ち前の民族性もあり、次第に好戦的になっていった。
後者の闘争心に満ちたうねりは、個人単位だけにとどまらなかった。
新聞という名の世論の代弁者――各紙が勝手にそう名乗っているだけだが――は、特に後者の立場で積極的な攻勢論を発信し続けていった。
前者は後者の声に引きずられ、肉親の死を無駄にせぬよう、軍への更なる前進と勝利を要求するようになっていく。
ヴァナヘイム国とは、各都市を代表する議員こそ存在したものの、封建領主の未成熟な集合体である。それが、帝国という外敵の侵入をきっかけにして、いつの間にか領主制の枠を超えた国家としてのまとまり・団結力を増していった。
それを一言で表するならば、「ナショナリズム」というものであろうか。
民衆1人1人が帰属を認識した国家は、象徴となる人物を欲した。
それは、不健康な外見を
そうした状況下、連戦連勝をもたらす若き指揮官・アルベルト=ミーミルは、おあつらえ向きだったと言えよう。
本人にとって迷惑以外の何物でもなかったが、「軍神ミーミル」という名の虚像が1人歩きしはじめた。
新聞各紙の煽りも手伝って、ヴァナヘイム国民の熱狂的な支持を得るに至っていく。
一部の代議士が、王都・ノーアトゥーンの正門に、彼の銅像を建てようと予算調整に動いているらしい。
その一方で、「私腹を肥やした」挙句、「帝国への売国交渉を始めようとしてた」軍務省次官に「正義の
【13-6】浮薄 下
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軍務次官銃撃事件――その号外を片手に彼らは拍手喝采し、留飲を下げたのである。
しかし、それらのなかに、次の事実を知っている者はほとんどを存在しなかった。
「軍神」を見出したのは、その「売国奴」であることを。
そして、「世論の代弁者」が、帝国系列財閥の資本で下支えされているということを。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
講和締結を避けたい帝国上層部の意向により、新聞各紙を通じてヴァナヘイム民衆を煽っていた――そうしたカラクリに驚かれた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「朝令暮改」お楽しみに。
「すぐに引き揚げよとのことですッ!」
「馬鹿な、作戦は始まったばかりだぞ!?」
11月9日曇天下、ヴァナヘイム軍伝令兵は、アルヴァ=オーズ中将の不機嫌極まりない表情と声によって詰め寄られていた。
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