【13-6】浮薄 下

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

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 エドラ城塞の城門に掲げられた戦旗「咆哮する狼」は、ポールに絡みつくようにしてすぼんでいる。


 ミュルクヴィズへの斥候派遣を見届けたアルベルト=ミーミルは、総司令官に割り当てられた部屋に1人入った。途中、彼宛の通信筒を副官から受け取りながら。


 ミーミルはデスクに座ると、脇に積まれたいくつかの古新聞を手に取る。10月15日付の紙面には、「帝国を国外に叩き出せ」という勇ましい文字が並んでいた。


 新聞報道では、審議会の流れは帝国との講和妥結の流れに傾いていたはずだった。ところが、軍務尚書の劇的な登場により、その方針は覆った。


【12-29】四輪車 下

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 民衆の不平不満を一身に浴びながら、講和論を提唱・推進してきた軍務省次官・ケント=クヴァシルは、往来で撃たれたという。どの新聞でも、「自業自得だ」と言わんばかりの社説が目立つ。


【12-32】花びら ③

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 新聞を戻すと、ミーミルはデスクの引き出しから、過日届いた軍用通信筒を取り出した。


 なかには、何度となく目を通した軍務次官からの手紙が納まっているが、ミーミルは無性にそれを読み返したくなったからだった。


 右に少しだけ跳ねるような筆致で、ヴァナヘイム国・騎翔隊による後方攪乱かくらんが期待できなくなった旨の詳細が記されており、ミーミルの体を気遣う言葉で結ばれている。


【12-27】正義の弾丸

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 最後に、彼は先ほど副官から受け取った通信筒を取り出した。


 封蝋ふうろうを切り、ふたを開け便箋を取り出す。


 送り主は、軍務次官行きつけのバー・スヴァンプの女主人・レリル=ボーデンだった。ミーミルも次官と共にこのお店には足繫く通っていた。


 電報ではなく速達で送られてきた手書きの文面には、新聞には記されていない事件当日の様子から後日譚ごじつたんまでが、生々しく記されていた。



「……」

 ミーミルは読み終えた便箋を傍らに置くと、天井を仰ぎ両目を閉じた。



「なんとか引き分け手前まで、もっていってくれねぇか」


「帝国と少しでも有利な条件で、講和を結んでみせる」


 紫煙をくゆらす、クヴァシルのひょろりとした後姿が、彼のまぶたに浮かんだ。



***



 バー・スヴァンプの店内――複数のテーブルをつなげた即席ベッドには、意識を失った壮年の男が横たわっている。


 伸び放題の頭髪と無精ひげが、かろうじて彼がこの国の軍務省次官・ケント=クヴァシル中将であることを物語っていた。


 しわだらけのシャツは、ほとんどが朱に染まっていた。


 前ボタンが開かれた先からは、未だ鮮血がとめどなく流れ出ている。シーツ替わりに敷いたテーブルクロスも、あっという間に朱に支配されていく。


 軍務次官が凶弾に倒れたという一報は、肉屋の旦那からバー・スヴァンプにもたらされた。店への納品の道すがら、たまたま現場を目撃したとのことだった――黒ずくめの連中に囲まれた後、次官が膝から崩れ落ちたのを。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


戦場に取り残されてしまったミーミルの胸中はいかばかりか、心配な方、

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「女城主・レリル=ボーデン 上」お楽しみに。


「――!」

 往来に倒れ込んだこやつを見て、あたしは柄にもなく動揺しちまった。


異常な脈打ちとともに、頭のなかが白くなる。


「ママッ」

「しっかりしてください!」

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