【13-7】 女城主・レリル=ボーデン 上

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 ここはバー・スヴァンプ――あたしの城さ。


 路地からほんのわずかに外れた立地と、マッシュルーム型の外観は気に入っているんだ。


 だが、あたしらが料理に腕を振るい、お客さんたちが舌鼓を打ってくれていた――そんな平穏な日々は、しばらく戻っては来なさそうだ。


 厨房は静まり返り、客席は複数のテーブルをつなげたが占めている。



 そこには、意識を失った軍務省次官・ケント=クヴァシル中将が横たわっていた。



 軍務次官こやつは、国中から嫌われて――いつかこういう日が来るだろうとは思っていたけど。よりによって、うちの店から目と鼻の先で難に遭うとはね――女神エーシルの悪戯ではないかと疑っちまうよ。


【12-32】花びら ③

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 軍務次官が撃たれた――肉屋の旦那から急報がもたらされるや、あたしらは現場に駆け付けた。


「――!」

 往来に倒れ込んだこやつを見て、あたしは柄にもなく動揺しちまった。


 異常な脈打ちとともに、頭のなかが白くなる。


「ママッ」

「しっかりしてください!」


「……あ、あぁ」

 店のたちの呼びかけで、我に返るとは……あたしも焼きが回ったものさ。




 こやつは、帝国との開戦に徹頭徹尾、反対していた。


 ろくな産業も持たない内陸の田舎国が、五大陸七大海に幅を利かせる帝国と喧嘩して、勝てるわけがない――そんなことは、子どもでも考えれば分かるだろうに。


 だが、この国のお偉方は、戦いへの歩みを主導した。こやつは、民衆を守ろうと、そんな連中と何度も政争の舞台でやり合ってきた。時に、貴族のお嬢様を巻き込んでまで。


【5-15】少女の冒険 ⑨ 精神論

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 血気にはやった連中によって、帝国との火蓋が切って落とされても、こやつは諦め

なかった。


 見出した若者を総司令官に据えるや、自らはるばる草原の国に向かっていった。


【7-11】東へ西へ 下

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 あたしが生まれるずっと前から戦いを繰り広げてきたブレギア――その隣国と同盟を締結しちまうなんて。


 随分あとになってそいつを知った時は、あたしも驚きを禁じ得なかった。なにせうちの親戚筋も東の国境での戦いに向かい、そのまま帰って来なかったもんだ。


 ともあれ、ブレギア騎兵による後方攪乱かくらんは、帝国軍を散々苦しめているそうじゃないか。



 何より、抜擢ばってきされた若き司令官閣下は、とてつもない名将だった。


 先日もここで食事をしていってくれたが、黒とび色の髪を持つ穏やかな青年だ。そんな彼が帝国軍を叩きのめした。


 夜襲をかけられた彼が、それを逆手にとって敵を同士討ちにしちまうなんて――まるで軍記物を読んでいるみたいじゃないか。その日は号外を持ち寄ったお客さんで、店は大盛り上がりだったよ。


【11-7】夜襲 ④ 終結

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 帝国との戦況を五分に戻し、講和を締結する――こやつの思い描いた環境は整ったわけさ。



 ところが、対帝国戦があまりにも上手く進んだために、無知・無責任な民衆は、戦いの継続を求めるようになっちまった。


 商いや賭け事だけじゃない。世の中、ほどほどのところで手を打つのが肝要なのさ。どこまでも利益を追い求めると、必ずしっぺ返しを食らう。童話や神話の鉄則じゃないかね。


 そうした見極めもできないとは……五大陸に民族性を露わにしちまった。


 それどころか、民衆のために講和締結を進めようとした軍務省次官のことを、民衆が売国奴呼ばわりしするなんて――こんな皮肉なことはないじゃないか。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


軍務次官が、バー・スヴァンプのママたちに救護されていたことに驚かれた方、

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「女城主・レリル=ボーデン 中」お楽しみに。


「ママ、どうしよう……」

「このままじゃ、次官さん死んじゃう……」


流血はとどまるところを知らない。傷口に添えたタオルは、次々と朱色に染まっていく。

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