【13-8】 女城主・レリル=ボーデン 中
【第13章 登場人物】
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軍務省次官・ケント=クヴァシル中将は、
遭難現場で正気を取り戻したあたしは、周囲を見回した。
後続もしくは先行する馬車の連中や、周囲の物乞いの子たちは、騒動に気が付きはじめている。民衆の憎悪を一身に集める軍務省ナンバー2――それが往来で襲われたなど、新聞屋どもの耳に入れば大騒ぎになっちまうだろう。
だが、こやつを手に掛けた黒ずくめの連中とやらは玄人だ。恐らくこの国の省庁の大臣様、もしくは帝国側あたりからの依頼を受けている。
下手に王立病院などに連れて行こうとすれば、他の患者や病院関係者にまで危害が及んじまう――。
おろおろと立ちすくむばかりの警護兵たちを押しのけ、あたしらと肉屋で、こやつを担架に乗せた。見てくればかりの護衛よりも、うちの
王都城下では、帝国に攻めこまれた場合を想定しての訓練が毎週行われている。その際に使用する担架――2本の棒とその間に布切れを張っただけの道具――が、ここで活躍するとは思わなんだ。
それにしても、こやつを抱き起してみて、驚いちまったよ――内政から外交までこの国を動かしていた軍務省次官様が、これほど軽いとはね。背の高さと体重がまるで見合っていない。枯れ木同然じゃないか。
国政を担う重責とは、これほどまでに人を衰弱させちまうものなのかい。
だからずっと言ってきたんだよ――
それなのに、こやつは仕事にかまけて、なかなか顔を出さないんだ。きっと煙草と水しか口にしていなかったんだろう。
次官様を
「ママ!エイル先生を呼んできます」
「エイルの爺さんは町医者だ。重体の国家的お尋ね者なんか、
だいたい、あの爺さんは患者よりも酒瓶と向き合っていることの方が多いじゃないか。
「ママ、どうしよう……」
「このままじゃ、次官さん死んじゃう……」
流血はとどまるところを知らない。傷口に添えたタオルは、次々と朱色に染まっていく。
「地下室からアクアビットのビンテージ、持ってきな!!」
不思議なもので、この国古来の蒸留酒は、古い物になればなるほど、不純物が少なくアルコール度数が上がる。傷口の消毒に最も適しているとあたしは踏んだ。
店の
構わんよ。旧友を救えるんなら、5本でも10本でも開けてやる。
「おい、吞気に寝てるんじゃないよ。この腐った国のために、あんたはまだまだ働くんだろう」
若い指揮官を1人戦場に放置したままにする気かい。
こやつに対するあたしの呼びかけに、店の娘たちは、みんな涙に
これじゃあ、まるで弔辞じゃないか。
まったく縁起でもないよ。まだ葬式じゃないんだ。
酒を傷口に振りかけたところで、応急処置にすらならない。
血の臭いは店内に充満していく。
まいったね。さすがのあたしも万事休すだ。打つ手がない。
リ~ンコォ~~~~ン。
店内の切迫した空気を、間の抜けた呼び鈴の音が混ぜっ返した。
周囲は薄暗くなりつつある――いつもなら開店の時間かい。表に何も出してなかったから、お客さんが来ちまったんだろう。
今日は臨時休業であることを伝えようと扉を開ける。
ゴン。
抵抗を覚えた店の扉の先には、馴染みの客――白髪・白衣の小柄な少女(?)が、両手で鼻を押さえ、うずくまっていた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
あれ、この登場の仕方って……あの時の童顔女医??
【9-28】 呼び鈴
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ボーデンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「女城主・レリル=ボーデン 下」お楽しみに。
名医の荒療治が炸裂します!!
「暗くて傷口が分からんッ」
ありったけの
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