【11-7】夜襲 ④ 終結

【第11章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139554817222605

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【イメージ図 ④】エレン郊外の戦い 8月21日 午前1時頃(帝国別動隊の退却)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330647687699998

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 低木群生地でやり過ごしたはずの、ヴァナヘイム軍・別動隊が引き返してきた。


 このままでは、包囲網が完成してしまう。そのなかで、兄弟両部隊は跡形もなく押しつぶされしまうことだろう。同士討ちで傷ついた彼らは、反撃もままならない。


「た、退却だッ!退却せよ!!」


 脳裏を恐怖に占領された次兄・エンレーは、自身の麾下きかを置き去り、長兄の部隊も忘れ、単騎馬首をめぐらした。


 それは、長兄・アーダンも同じようであった。兄弟の両部隊とも、指揮官にならい三々五々、ヴァナヘイム軍本営から離脱していく。



 その先は闇の原野である。


 しかし、人馬には帰巣本能が備わっているのだろうか。戦場を逃げ出した帝国兵の多くは、幸いにして低木群生地に逃げ込むことができた。


 蚊の大群による、再びのすら心地よさを感じつつ、エンレーは懐中時計を開く。


 日付はいつの間にか改まり、8月21日の午前2時30分を回っていた。



 しかし、彼が一息ついたのも束の間のことだった。背後から馬蹄のとどろきと銃声が迫る。


 ヴァナヘイム軍は低木群生地に至っても、追撃の手を緩めるつもりはないようだ。


 エンレーは、敵の指揮官がただただ、恐ろしかった。


 我が策を完全に見破ったばかりか、包囲から追撃へと、自らの手足のように麾下を動かしてくる。


 低木群の向こうから濁流のように迫る松明を前に、エンレーは口を閉じることすら忘れていた。

 

 帝国軍の敗残兵たちの心を、恐怖が完全に支配した。小銃も背嚢はいのうも打ち捨て、将校の命令も無視し、我先にと低木群の向こうへと駆け出していく。




 こうして、ブランチ家の長兄・次兄の部隊は、作戦を看破された上に、手痛い反撃を受けて、う這うの体で逃げ戻ってきた。


 しかし、第3師団の本営にたどり着きながらも、彼等に安息は与えられなかった。


 時刻は8月21日の午前4時に至ろうとしていたが、暗夜は周囲に居座っている。


 父・ウスナと末弟・ネーシ等各隊は、いまだ次兄・エンレーの立てた作戦の只中にいた。自軍の本営を囲むようにして、ヴァナヘイム軍の別動隊が現れるのを、息を潜めて待ち構えていたのである。


 ヴァナヘイム軍本営からこの第3師団本営までは遠く、長兄との同士討ちを止めるべく、次兄が上げた信号弾を、父も末弟も視認できていない。


【11-6】夜襲 ③

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 ヴァ軍本営で鳴り響いた砲声や銃声は確認されたが、長兄と次兄の別動隊による襲撃が成功したものと、前向きに解釈していた。


 そのため、実父と三男は、散々に打ち破られて逃げ戻ってきた長兄・次兄の部隊をヴァナヘイム軍と誤認した。


 ただの敗走ではない、ヴァナヘイム軍の猛追撃を背負っての、恐怖と殺気の入り乱れたなりふり構わぬ逃走である。


 そのような様子で帝国本営に急迫してくる者たちなど、ヴァ軍にほかならない――待ちあぐねていた実父と三男は、ただちに包囲・撃滅に打って出る。



 闇夜に、同士討ちが再び展開された。


 今度は、ブランチ一家の全軍をもって。


 

 同日午前5時――黎明れいめいに至って、一族相撃そうげきという大失態による作戦瓦解がかいに、ブランチ家各隊はようやく気が付いた。


 しかし、それは、ヴァナヘイム軍の総攻撃準備がすべて整った頃合いでもあった。


 帝国軍の兄弟各隊が、低木群を飛び出し、元来た本営へと逃げ散っていく。それを見届けると、ヴァナヘイム軍は追撃をゆるめていった。


 そして、混沌狼狽こんとんろうばいを極め、多大な損害を出していくブランチ家各隊を前に、ヴァ軍はゆるゆると陣形を整えていた。


 こうして、満身創痍そういとなった帝国軍中央第3師団を、万全の支度を整えたヴァナヘイム軍は、いとも簡単にぎ払ってしまったのである。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


父親と末弟まで加えて再びの同士討ちとは、ブランチ家は踏んだり蹴ったりだな、と思われた方、

策を仕掛けたのはアルベルト=ミーミル……相手が悪かったな、と思われた方、

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【予 告】

次回、「【イメージ図 ⑤、⑥、⑦】エレン郊外の戦い」お楽しみに。


低木群生地に逃げ込んだ、長兄・次兄の敗残兵を小突きまわすヴァナヘイム軍。

帝国軍本営へ逃げ込んできたそれら長兄・次兄の別動隊を、ヴァ軍と誤認しての、父・末弟による彼らの包囲殲滅攻撃。


満身創痍となったブランチ家各隊を、仕上げとして一掃するヴァ軍。


エレン郊外の戦いの終結を、図面にてご確認ください。

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