【11-6】夜襲 ③

【第11章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139554817222605

【イメージ図 ③】エレン郊外の戦い 8月20日23時頃(帝国別動隊の同士討ち)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330647604752292

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 夜のとばりの下りたヴァナヘイム軍本営では、帝国軍の別動隊が同士討ちを演じていた。


「やめろ!味方同士だッ」

 エンレーはたまらず、方々に叫んでいた。


 しかし、発砲中止を命じようにも、優男の甲高い声など、闇夜の戦場では霧散してしまう。


 前方からは、小口径の砲弾までうなりを上げて飛来する。


 さすがは、長兄の旅団である。ブランチ家一屈強な部隊の攻撃に見舞われたらどうなるのか――次兄はというほど、思い知らされている。


 やむなく彼は複数の伝騎を走らせる。しかし、途中で流れ弾に当たる者が続出しているのだろうか、指示が徹底されない。一度発砲を止めた部隊も、撃ちすくめられ、やむなく反撃を再開する。


 わずかな間に、多くの敵味方――もとい、が朱に染まり、倒れていく。



 エンレーはやむなく、信号弾を上げさせる。


 夜空に広がった赤色の花は、帝国軍では「撃ち方やめ」を意味する。


 それを見た長兄の部隊も、ようやく事情を察したのだろう。徐々に銃火を収めていった。



 しかし、そんな彼等に息つく暇も与えぬよう、長兄軍の向こうより、こちらへ新たな手勢が突進してくる。


 繰り返すが、この敵陣営に、帝国軍は彼等兄弟しかいない。


 新手は、今度こそ間違いなく、ヴァナヘイム兵だ。


 そうであった。先刻、兄旅団のものとエンレーが勘違いしていた喚声(この本営の北側に響いていた咆哮)こそ、ヴァ軍の発するものだったのだ。


 あろうことか、エンレーは、自軍とヴァ軍をもって、長兄の部隊を挟撃していたのである。



 闇夜を割いて、ヴァナヘイム軍が迫る。急ぎ、迎撃の体制を整えねばならない。


 しかし、帝国軍別動隊は、激しい同士討ちをやらかした直後である。


 指揮系統は大いに乱れ、動揺が混乱を呼び、下士官・兵卒は右往左往するばかりであった。


 兄・アーダン旅団の方が、に気が付いたのが遅かったこともあり、動揺の振れ幅は大きいようだ。


 弟・エンレーが再び伝騎を走らせようにも、先刻、同士討ちを止めさせるために全騎を投入してしまい、その多くが未帰還である。信号弾では、細かい部隊再編など伝えられようはずもない。


 兄弟は、敵の好餌こうじとなった。



 ヴァナヘイム軍の夜襲を逆手に取り、帝国軍まで夜襲をしかけてくる――こちらの作戦を敵の司令官は見抜いていたのだ。


 いまにして思えば、これ見よがしな「ヴァナヘイム軍による夜襲」が、敵将による誘いの一手だったのかもしれない。


 そして、本営を空にして、我ら兄弟を同士討ちへと誘った。


 兄弟相打ち、双方が部隊としての機能を失した頃合いを見て、ヴァ軍は仕上げとして包囲に取り掛かったのだろう。



 さすがは、兄弟一の知力を持つエンレーだった。彼は敗北のふちに立ちながら、事態の推移を正確に読み取っていた。


 しかし、事態を収拾するすべは、持ち合わせなかった。


 彼の立てた作戦は、既に破綻している。



 ヴァナヘイム兵は、全員が白いたすきを上半身に巻いていた。暗夜、帝国兵のような同士討ちを起こさぬためだろう。


 通常の夜間戦闘であれば、格好の的にできただろうが、戦闘部隊としての機能を失いつつある帝国軍は、反撃の糸口すら見いだせない。


 否、帝国軍がこのような状況に陥ることまで見通して、ヴァ軍は白襷を用意していたのだ。


 ――完全にお手上げだ。

 エンレーは、漆黒のそらを仰いだ。



 驚くべきことに、この時、兄弟が進軍してきた方角からも喚声と銃声が加わった。


 往路の折、低木群生地にてやり過ごしたとはずのヴァ軍の別動隊が、戻ってきたというのか。


 ――敵は、我らをここで完全につもりのようだ。

 エンレーの脳裏に恐怖がほどばしる。


「た、退却だッ!退却せよ!!」


 彼は、自身の麾下きかも長兄も忘れ、馬首をめぐらした。







【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ミーミルの方が、エンレーよりも、1枚も2枚も上手だったな、と思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【イメージ図 ④】エレン郊外の戦い」お楽しみに。


同士討ちをした帝国別動隊を、ヴァナヘイム軍は巧みな動きで包囲していきます。


アーダン・エンレー兄弟が逃げ出す様子とともに、ご確認ください。

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