【12-27】正義の弾丸

【第12章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 未明のノーアトゥーン郊外の住宅地に銃声が響いたのは、農務相執務室での同大臣・軍務次官のやり取りから数日後のことであった。


【12-26】売国奴 下

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 窓ガラスが砕ける甲高い音で、ケント=クヴァシルは眼を覚ました。


 南側の狭い庭に面した窓は大きく割れ落ち、3発の銃弾が居間の壁にめり込んでいた。


 使用人は寝巻姿のまま退職の希望を伝え、逃げ出していった。


 家の主人はやれやれとぼやきながら、銃弾を撃ち込まれたばかりの居間に胡坐あぐらをかいた。


 そして、窓を開ける手間が省けたことを幸いに、煙草をくゆらせはじめるのだった。


 紫煙はゆったりと庭先に流れていった。




『売国次官宅に、正義の弾丸が放たれる』


『未明に響いた希望の銃声』


『救国の義挙は、偉大なる銃弾3発』


 軍務次官宅に、銃弾が撃ち込まれたことは、ただちに号外新聞によって広められた。


 いまや軍務省の次官様は、諸悪の根源のような扱いをされている。号外は飛ぶように売れ、ヴァナヘイムの民衆は、その「義挙」に関する記事を胸がすく思いで読み込むのだった。



***



「そ、その情報は事実ですか……」


「ああ、間違いない。国王の死にともない、兵を引き揚げることが決まったらしい」


 ユングヴィ=フロージは、苦々しげな表情をクヴァシルに向けて続ける。


「外務省はすでに情報を掴んでおるそうだ。もっとも、ヤツらも帝国との交戦継続派だからな。おぬしに情報を与えなかったのだろう」


 10月も半ばにさしかかろうという秋晴れの下、ヴァナヘイム国農務省のトップが軍務省次席執務室にもたらした情報は、重く暗いものであった。


 対座する農務相が怪訝そうに顔をしかめるほど、軍務次官は呼吸すら失念してしまった。


 自宅に銃弾を撃ち込まれても動じなかった男が、煙草をくわえたまま放心状態に陥っている。過半が灰になっても、彼は口からそれを離そうとしなかった。









 騎翔隊の撤退――。



 ブレギア国の突然の方針転換は、ヴァナヘイム軍総司令官・アルベルト=ミーミルの立てた作戦の根底が崩れたことを意味する。


 これまで帝国軍の後方を攪乱かくらんしてきてくれた友軍の消失。それがヴァ軍前線にもたらす影響は測り知れない。


 部屋の主は、無言のまま腕を組み、眉間にしわ寄せ、そして項垂うなだれた。


 煙草の灰が塊のまま床に落ちる。



 ――国王崩御により、ブレギア内部の権力構造が変わりつつあるのだろうか。

 クヴァシルは、隣国宰相の美しい顔を思い浮かべた。


【7-12】貴婦人 上

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【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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【予 告】

次回、「四輪車 上」お楽しみに。


「たかだか次官ふぜいが国を語るな」

鉄道相・ウジェーヌ=グリスニルが苦しそうに反撃を口にする。


それに対しても、軍務次官は冷静に言葉を指し回す。

「半年前の国家存亡の折、自領に逃げ込み隠れていた方よりは、国を語る権利があると自負しております」

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