【7-12】貴婦人 上

【第7章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428974366003

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927863011875998

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 帝国暦383年6月9日、ヴァナヘイム国の使者・ケント=クヴァシルは、アリアク城塞に到着した。


 使者来訪の情報が事前に伝わっていたのだろう。


 ブレギア宰相・キアン=ラヴァーダ以下、

 アリアク城主・ダグダ=ドネガル、

 建国以来の宿将・アーマフ=バンブライ、クェルグ=ブイク、ベリック=ナトフランタル、

 さらには草原の双璧・エヘ=ボルハン、ソルボル=ブルカンなど、


 そうそうたる将軍たちが、城門に堵列とれつし、隣国からの使者一行を出迎えたのであった。



 クヴァシルは馬から降りると、そのひょろりとした身体を曲げた。


 そして、ひざまずくブレギア宰相へ帝国公用語で呼びかける。

「至急、宰相閣下のご意見を承るよう、カーヴァル国主陛下よりご案内いただいてまいりました」


「遠路はるばる、このような辺境の城までお越しいただき、いたみいります」


 クヴァシルの視線からは、宰相の白く形の良い鼻筋と、銀色の長い睫毛まつげがよく見えた。



 ブレギアは、帝国からの亡命者たちにより、国家として形成されるに至ったが、その国家を支えるは、多数の草原の民であった。


 そのため、国内では、旧来の言語や風土に合った暦が使用されている。


 一方で、対外的には、帝国公用語や帝国暦が用いられていた。その方が、外交や交易の場において障害が少ないからだ。




 ヴァナヘイム国使節・ケント=クヴァシルは、アリアク城塞において、最上の礼をもって出迎えを受けた。


 「貴婦人」の拝顔はいがんえいに浴した城門での会見だけで、彼はこれまでの負の感情が、一挙に霧散する思いであった。



 城門で歓迎を受けた後、使者一行は城塞の応接間に通された。


 そこでラヴァーダは、クヴァシルの前に再び片膝をつき、ヴァナヘイム国王からの書簡をうやうやしく受け取った。


 簡素な木製の椅子・テーブルではあるが、隣国の使者がその上座につくのを見届けるようにして、宰相も下座に腰をかけた。


 応接間とはいえ、室内の調度品はいたって質素である。額縁がくぶちに囲われた仰々しい絵画などは飾られておらず、装飾豊かな絨毯じゅうたんも敷かれていない。


 田舎要塞のため垢抜あかぬけないのか、それともこの宰相が質朴しつぼくを好むためなのか。おそらくその両方なのだろう。


 通信筒を開いたラヴァーダは、その形の良い口元に笑みを浮かべた。それだけで室内が明るくなったように感じられる。


 キアン=ラヴァーダが居れば、絵画も絨毯も不要であることに、クヴァシルは遅ればせながら気が付いた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


航跡いち眉目びもく秀麗なの宰相・ラヴァーダに魅せられた方、

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【予 告】

次回、「貴婦人 中」お楽しみに。

ラヴァーダ、クヴァシル両者の会談は続きます。


「貴国ご主君からの書簡、確かに拝読いたしました」

ブレギアの宰相はそう言うと、書状を丁寧に通信筒に戻していく。

「ダーナまで行き来されたとの由、我が領内は解氷かいひょうの水により、道中難儀されたことでしょう」


「なんの、母国の窮地とあれば、悪路も苦になりません」

そういうヴァナヘイム国使者の軍服は、儀礼用ながら泥だらけである。


ふたたび宰相の口元に笑みが浮かぶ。

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