【13-18】 二枚斧 上

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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『……こちらは、連日の雨とともに肌寒い日が続いておる。兵馬が調子を崩さないか心配だ』


 濡れそぼった「二枚斧」戦旗の下――ヴァナヘイム軍・第1師団指揮所の天幕内。そこでは、老眼鏡をかけた同師団長・アルヴァ=オーズ中将が、1人手紙を書いていた。


 まだ夕方前だというのに、幕内は薄暗い。脇に置いたカンテラの炎が、鼻先のレンズに時おり反射している。



『作戦は長引く様相を呈しておるが、年明けには必ず王都へ帰るゆえ……』



 巨躯きょくかがめて器用に羽付きペンを動かしているが、便箋びんせんを広げるテーブルも腰掛ける椅子も、中将の体格に合っていなかった。足元には、丸められた反故ほごが散乱している。


 子ども用の机に大人が向かっているかのような様子は、見た者に滑稽こっけいな印象を与えかねない。


 ヴァナヘイム軍一の猛将の意外な側面は、「筆まめ」と言えるだろう。これまでも、遠い戦場から度々文をしたためては、王都・ノーアトゥーンの奥方宛に発送してきた。


【10-14】 寂しさと照れくささ

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***



 ――これが、帝国の砲撃か。


 アルヴァ=オーズは地に伏せたまま、目の前に広がる光景に圧倒されていた。


 そらをつんざくような甲高い音や、大地を揺さぶるような重低音を響かせて、大小無数の砲弾が飛来する。


 弾着に次ぐ弾着――活火山のように地面という地面から爆発という爆発が沸き起こり、竜巻のように土砂という土砂がそこかしこで天高く舞い上がる。


 先の総司令官・ドーマルを村ごと吹き飛ばし、アッペルマンをミュルクヴィズ城塞ごと殲滅せんめつした砲火は、常軌をいっしたものだった。


 頭上では飛び交う弾丸が途切れる気配もなく、風切り音と地響きがぶつかり、地上からの土砂と混ざり合う。ただでさえ厚い雲に覆われた空は、一段と暗さを増すばかりだ。


 おまけに、砲弾が炸裂する際の放熱とその高熱を帯びたガスが辺りに充満した。焼けつくような風圧が戦場を席巻する。


 わずか数時間の戦闘で、間違いなく地形は書き換えられることだろう。



 ――なんという雄大な構えだろうか。


 オーズはうなった。双眼鏡を握る無骨な手が、震えている。


 周囲を囲む小高い山には、まるで等高線のように帝国軍の砲陣が敷かれていた。


 それら膨大な数の野砲から、矢継ぎ早に砲弾が曇天へ放たれては、こちらの頭頂に降り注ぐ。


 それにしても、帝国の操る大砲は、発射する度に大きく後退するものがほとんどない。それが、送弾数を飛躍的に伸ばしている。いったい、どういう構造カラクリなのだろう。


 発砲の衝撃で後方に勢いよく下がり、それを元の位置に戻して諸元を整えるだけで一苦労――それが野砲の厄介な点ではなかったか。



 それに、帝国軍の重厚な布陣を構成しているのは砲兵だけではなかった。


 その脇には、無数の騎兵・歩兵を抱えているのだ。


 地面に這いつくばっていた味方第2師団のなかに、砲雨から反転離脱を試みた一部隊があった。すると、帝国軍の騎兵・歩兵は奔流のように飛び出すや、その背中へ一閃――たちまち殲滅してしまったのである。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


帝国軍の火力に圧倒された方、

オーズの身の上が心配な方、

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「二枚斧 中」お楽しみに。


砲弾の暴風雨のなか、オーズはゆらりと立ち上がった。


サーベルのさやを払う。

たぎる大気に肺腑を焼かれることも構わず、息を大きく吸い込む。

弾雨舞い散るそらに向かい、雄叫びを上げる。


そして、命じた。


「第1師団、前進ッッ!!!!」

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