【13-19】 二枚斧 中

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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 ヴァナヘイム軍第1・第2師団の将兵は、まったく身動きが取れないでいる。


 窪地くぼちに隠れられている者は良いほうで、大多数の者は地面にへばりついたままだ。しかし、彼等が健気けなげにも身を伏せ、じっとやり過ごすことすら、帝国軍は許さないようだった。


 これほどの砲撃の嵐は、ヴァ軍将兵にとって経験したことのないものだった。圧倒的な野砲の数もさることながら、そこから繰り出される送弾数も自軍のものとは比べ物にならない。


 砲弾の暴風雨を前に、人馬など木っこっぱに等しかった。


 猛り狂った雷鳴に落雷――閃光と轟音を前に、将兵は視力に聴力を奪われていく。


 土砂とともに巻き上げられるや、首や腕、足をもがれたまま四散していく。


 殺到する熱波に肌を焼かれ、鼻腔から気道、そして肺腑をえぐられる。


 

 第1師団には、ブレギア国から派遣された騎翔隊が一部配属されていた。


 エーシルを唯一神とするヴァナヘイム将兵とは異なり、彼等のなかには「帝国軍が天の神と地の神を自在に操っている」と錯覚する者も出ていた。


 浅黒い肌を持った騎兵たちは、草原の国の神々――天神と地神の怒りを鎮めようと大地にひれ伏している。




『作戦は長引く様相を呈しておるが、年明けには必ず王都へ帰るゆえ……』




 吹き荒れる砲弾のなか、オーズはゆらりと立ち上がった。


 ――ストレンドで我らを待っている甥っ子……ヘイダルも連れて帰ってやらねばならんな。


 サーベルの太いさやを払う。


 それを振り上げるや、たぎる大気に肺を焼かれることも構わず、息を大きく吸い込む。


 そして、弾雨舞い散るそらに向かい、雄叫びを上げる。



 彼は、麾下に命じた。



「第1師団、前進ッッ!!!!」



 聴力を失いつつあるはずのヴァナヘイム軍・将兵軍馬に、猛将の怒声は染み込んでいった。

 

 黒煙に粉塵に硝煙、それに熱風が渦巻くなか、目をぎらつかせ、歯をき出しにして、1人、2人、10人……100人、500人……1,000人が、次々と立ち上がっていく。


 砲弾の破片に、仲間がミンチのように吹き飛び、トマトのように潰されてもひるむ様子もなく、オーズの雄叫びに共鳴する。


 それは、師団長直卒の将兵のみならず、ロニー=マルデル准将等、脇を固める各隊にも伝播していった。


 いつの間にか、戦鼓は中隊規模で機能を取り戻し、そのリズムに合わせてヴァナヘイム軍は前進を開始する。




『……甥っ子たち、それにダリアン、あいつの遺族嫁さんと娘っ子も呼んで、庭園で昼食会を開こう』




 おびただしい数の「2枚斧」――オーズ家戦旗が林立する。


 ヴァナヘイム軍第1師団・2万の突進である。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


第1師団の前進に圧倒された方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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オーズたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「二枚斧 下」お楽しみに。


猛将・アルヴァ=オーズに率いられたこの部隊は、彼の手足であり、また、彼の存在こそ心臓であった。


鼓動は戦鼓へ乗り移り、いよいよ激しさを増す。

脈拍伝わる四肢ししは、ますます躍動する。


「進めえぇええやあぁぁぁッ!!」


オオオウゥッッッ!!!

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