【13-20】 二枚斧 下

【第13章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

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 ストレンド郊外の戦場では、アルヴァ=オーズ中将の号令一下、ヴァナヘイム軍・第1師団の前進が始まった。


 特務兵を割り当てられた当初こそ、3万という軍団規模を誇った彼らも、その数を7割以下に減らしている。


 レディ・アトロン隊との死闘を皮切りに、イエロヴェリル平原各所での激闘を経た上に、この地での帝国火砲を浴びに浴びて――。


【8-5】兵士が生る樹 上

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 だが、猛将・アルヴァ=オーズに率いられたこの部隊は、彼の四肢ししであり、何より、彼の存在こそ心臓であった。


 鼓動乗り移りし戦鼓は、いよいよ激しさを増す。


 脈拍伝わりし兵馬は、ますます躍動する。



「進めえぇええやあぁぁぁッ!!」


 オオオウゥッッッ!!!


 猛将の号令に応じる将兵2万のときの声は、いつの間にか砲弾の飛来音をかき消し、炸裂音を押し返していた。




『昼食会の後は、ヘイダルに自慢のコレクションを見せてやろう。も、もちろん、宝物庫のカギを掛け忘れないよう気を付ける――』


【10-12】 ネイル

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 着弾し滅裂する砲弾に仲間を削られながらも、山腹の敵陣に向けてヴァナヘイム軍は駆け上がっていく。


 最前線に配置された帝国兵も、ふもとより迫りくる敵兵に必死の抵抗を試みる。仰角を目一杯下げ、慌てて砲尾より砲弾を込めていく。それら砲兵を支えるように、歩兵も山裾に向けて小銃をがむしゃらに撃ち込んでいく。


 雨あられと飛び交う銃弾に昏倒こんとうする同僚を、ヴァナヘイム兵は踏み越えてくる。血しぶきと共に漂う狂気めいた空気に足を取られ、射角調整の折、転倒する帝国砲兵は後を絶たない。


 帝国砲陣がクワッと咆哮した刹那せつな、ヴァナヘイム軍の兵馬がまとめて消し飛ぶ。「二枚斧」の戦旗数枚が、ボロ雑巾ぞうきんのようになり、崩れ落ちる。


 しかし、第1師団の前進は止まらない。


 ヴァ軍の猛将麾下による圧力にさらされ、送弾ピッチを誤ったのだろう。腔発こうはつ――砲身内で砲弾が暴発し、帝国砲兵がバタバタと倒れていく。


 双眼鏡越しでは――帝国陣内のそこかしこで、砲兵は野砲を放棄し、歩兵は持ち場を捨てて逃げ出し始める。


 さすがに、「わし」の紋章旗は打ち捨てるわけにもいないのだろう、下士官と思しき者たちが慌てて折り畳む様子も見受けられた。だが、手もとがもたついているようで、帝国戦旗の片づけは思うように進まない。


 こうして、砲弾・銃弾ともに沈黙する帝国陣営が続出した。



 目元の傷ごと両目を見開いたオーズは、その隙を逃さず厳命する。

「粉砕せええぇやああぁぁああぁぁぁ!!!」


 オオオォォオオォォォオオウウゥウゥッッッ!!!!!


 帝国砲陣が網の目のように敷かれた小高い山々――その麓では、ヴァナヘイム軍の喚声が埋め尽くした。



***



『……先の手紙に体調が優れないとあったが、その後、加減はどうか。くれぐれも体を大事にするように』



 天幕内には、椅子に座るオーズの後ろ姿があった。小さなテーブルは、完全に中将の背中の向こうに隠れている。


 奥方への手紙を書き終え、ひと息ついているようだ。口に運ぶティーカップは、無骨な手に比してあまりにも小さい。


 彼がカップをソーサに戻すと、カンテラの炎が揺れ、紙面を照らした。


 熊のような手が生み出した文字は、意外にも小さく可愛らしいものだった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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オーズたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「悲報」お楽しみに。


11月13日、冷雨降りしきるドリス城塞には、俄かに信じられないような報告が次々ともたらされていた。


わずか数時間で、主力部隊が総崩れになったというのだ。驚嘆すべき一報に接し、ヴァナヘイム軍総司令部の幕僚たちは、建物から飛び出したまま、総立ちになっていた。

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