【10-12】 ネイル

【第10章 登場人物】

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 オーズ夫人にとって、遠縁にあたるクヴァシル次官は、いつまでも手のかかる弟分なのだ。


 彼女の一人語りはとどまるところを知らず、アルバムまで引っ張りだしてまで繰り出されるそれは、さながら機関砲のようである。


 しかし、用兵の妙を極めたミーミルである。による言葉の弾雨だんうをやり過ごし、わずかに掃射が弱まった隙を逃さない。


「先日、窃盗団の大規模な捕縛がありました。そのアジトから押収されたものです」

 ご確認のうえ、お納めください――屋敷を訪れた本題を切り出すことに、ようやく成功した。


 隣のローズル副司令が、お見事ですと言わんばかりに深くうなずく。



 この応接室のテーブルは大きい。ミーミルが取り出した木箱を、女性使用人が奥方・フレイヤの前に運び、ふたを外す。


 奥方は大きな瞳をさらに広げ、「まぁ!」と驚いている。


 あらかじめ、訪問理由をオーズ夫人に伝えておく――軍務次官からそう言われていたものの、夫人の様子からして、次官は意図的気後れした偶発的うっかりか、その任務を果たしていないようだ。



「ええ、間違いなく、私のブリージンガルです」

 フレイヤは木箱ごと胸に抱き、「お帰りなさい」「寂しかったでしょう」などと、いとおしそうに首飾りへ話しかけている。


 室内は、しんみりとした空気に包まれた。情にもろい階段将校たちはもちろん、気の短い参謀長まで、込み上げるものがあるような表情をしている。


 だが、心和む雰囲気はここまでだった。



「まったく、あの人ったら……」

 突然、奥方のが入ったようだ。


 オーズ中将は、自慢のコレクション――歴史的価値の高いサーベルや拳銃などを、来客に見せることが多いらしい。宝物庫を開けたら必ず錠を閉めるよう、妻は口を酸っぱくして言ってきたが、夫はいつも施錠を忘れていたという。


 そして今回、首飾りを盗まれた。


 フレイヤは、思い出している間に怒りがぶり返したらしい。大きな瞳は黒く濁っていき、栗色の巻き毛は逆立ちはじめている。


 奥方の袖口――ラッパ状のフリルの合間――から、小さな拳が顔を出す。強く握られていた拳骨げんこつがわずかに広げられ、形よく鋭い爪が見え隠れする。


 猛将の目元に一生モノの傷をつけたネイルだろう。危うく首も挙げられそうに……そのくだりを思い出した5人は、一斉に椅子を後ろへと引いた。



 ミーミル麾下が得意とする、美しいである。


【10-9】 大陸一の英傑 下

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【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


怒りがぶり返したフレイヤ・・・この先が気になる方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「セムラ」お楽しみに。


食べていいの?と尋ねるようなフレイヤの視線に、使用人はそっとうなずく。


「いっただっきまーすッ」

童女顔の奥方は、この菓子に目がないらしい。

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