【8-11】転用 上
【第8章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429051123044
【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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「そのようなこと、できるわけがなかろう!」
「そうだッ。冗談も時と場合をわきまえて発言したまえ」
「兵力補充がかなわなければ、我が国は滅びます」
ヴァナヘイム国・法務相に内務相は、異口同音、唾をとばして
6月23日、王都・ノーアトゥーンにて、法務相・フォルセティ=グリトニル、内務相・ヴァーリ=エクレフ、鉄道相・ウジェーヌ=グリスニルの三閣僚と、それぞれの次官クラスに緊急招集をかけたのは、軍務次官・ケント=クヴァシルであった。
彼は、ブレギアからの帰国早々、休む暇もなく、新総司令官からの「3つ目の依頼」に取り掛かっていた。
王都に戻る前、ギャラールの街に入ったタイミングで、関係者たちへ会議招集の無電を打っておいたのである。
三閣僚の表情には、それぞれ「不・愉・快」の文字が点灯している。
軍務省の次官が、ずけずけと持論を切り出してくる無神経さは、いまに始まったことではないはずだ。
しかし、それ以上に彼らが
だが、軍務次官の身なりの無頓着さ――後頭部で頭髪が大きく跳ね上がり、髭は伸び放題、泥だらけの礼服姿のままといった様子――も、いまに始まったことではないはずだ。
「しかし、囚人を戦場に送り出すなど、聞いたことがないぞ」
「街に転がっている失業者など、兵士として役に立つのかね」
「では、病人や怪我人に加え、老人や子ども、さらには女性たちを戦場に送るように手配してください」
そのようなことが出来るはずがないことを、クヴァシルは知っている。
だが、いま軍部の要望を通すには、こうした強硬な姿勢を貫くことが最も効果的であることも、もちろん知っていた。
帝国軍は既に王都・ノーアトゥーンの間直にまで迫っている。閣僚審議の間に集った者たちは、日々その恐怖にさいなまれてきた。
この場にいるだけマシなのだろう。財務相・カマス=ヴァラナウトなどは、ひと月前、王都を離れて自領に籠ったきり、病気を理由に出仕していない。
「しかしだね、クヴァシル君。囚人ども……いや、服役している者たちを、戦場に出ただけで恩赦にするというのは、いくらなんでも……」
「兵として使い物にならなければ、頭数だけ揃えても意味がありません]
内務大臣の口から漏れかけた本音を、軍務次官は気に留めることもなかった。
ただでさえ、調練する時間がほとんどないのだ。訓練は、負傷者はおろか時には死者まで出るほどの重いものになることだろう。それをくぐり抜けたとしても、新兵が向かうのは絶望的な戦場だ。
「恩赦くらい約束せねば、彼らの士気は高まらないでしょう」
口ではそう述べながら、閣僚たちが躊躇するのも無理はないと、クヴァシルは思う。
己が釈放を要求しているのは、ただの凶悪犯罪者だけではないのだ。
ここにいる法務相・グリトニルや内務相・エクレフをはじめとした為政者たちが、苦労を重ねて権力闘争の場から追い落とした者も数多く含まれているのである。
そのような者たちを放免し、なまじ小銃まで持たせた場合、その銃口がいつ自分たちに向けられても、おかしくはないのだ。
クヴァシル自身、そうした人事抗争に無縁でいまの地位にいるわけではない。
だが、彼ら為政者たちに同調していたら、この国は帝国に
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
草原の国への長大な旅程を消化してすぐ、国内関係者の調整に入るとは、クヴァシルは鉄人だな、と思われた方、
政治犯と失業者の兵員転化とは……ミーミルの発想はすごい、と思われた方、
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【予 告】
次回、「転用 中」お楽しみに。
高級葉巻をくゆらせて、それまで黙っていた鉄道相・ウジェーヌ=グリスニルが口を開いた。
「なあ、クヴァシル君、やはり恩赦についてはもう1度、検討を重ねてみてはどうかね」
「いいでしょう。帝国軍がこの王都に殺到するまで、このまま議論を重ねるとしましょうか」
――貴様が収容所に閉じ込めたフォルニヨートの射撃の腕は、悪い筋ではないぞ。
打算を働かせる表情すら隠そうとせず、思案に暮れる閣僚たちの様子を目のあたりにし、軍務次官は思わず反吐が出そうになった。
――アルベルトのやつ、面倒なことばかり押しつけやがって。
クヴァシルは、自らが推薦した総司令官を内心毒づかざるをえない。
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