【8-10】捕虜 下

【第8章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 ヴァナヘイム国は、為政者の独裁色が強い。


 国王というよりも、その重臣たちの地位を守るため、争いが絶えなかった。


 表立って兵馬を差し向け、政治的敵対者とその一族郎党を滅ぼすようなことは減りつつあったが、水面下では彼らに「国家反逆罪」・「政治犯」という名の罪を着せ、国事犯収容所へ次々と放り込んでいるという。



 このような旧時代的な世相が続く一方で、隣国の帝国では、近年、機械工業が著しい発展を遂げていた。


 機械化の波は各大陸に及び、各国の産業に大きな影響を与えていたが、陸続きのヴァナヘイム国は、その余波を一身に受けることになった。


 価格・スピードともに、人の手は機械に勝てず、製造業において旧来の家内工業は軒並み廃業を余儀なくされていった。



 王都・ノーアトゥーンのみならず、イエリン・ヴァーラス・ドリスなどの街には、職にあぶれた者たちがあふれた。


 彼等のほとんどは、ひと財産稼ごうと故郷の戸籍から抜け出し、そのまま都市部に居ついてしまった元・出稼ぎ労働者である。


 失業者たちによる帝国への怨嗟えんさの声が上がるたびに、街の治安は悪化していった。



 こうした「犯罪者」や「失業者」たちは、道路・堤防補修や架橋、それに王族陵づくりなどの作業現場に集まった。


 それらの公共の土木工事に、前者は強制的に従事させられ、後者は日銭を稼ぐために自ら足を運んだのである。




「囚人は2万人、失業者は30万人以上にのぼるだろう。その内の半数を男とし、さらに、土木作業などに従事していた年齢層、すなわち徴兵適齢者をその2分の1とすれば……」


「……なるほど。敵は労せずに8万もの兵力を手に入れたというわけですか」


 レイスが不敵な笑みとともにつむぎ出した数式に、トラフが口元を歪めながら解答を弾き出した。


 刑罰として重労働に服役していた者たちや、時代の波によって職にあぶれた者たちを兵士として戦場に駆り立てる――。


 この場にいる者たちは、思いもよらなかった敵の発想に、またしても息を呑んだ。



「……しかし、政治犯として苦役に服していた者たちが、あだともいえる為政者のために戦うでしょうか」

 ゴウラが沈鬱とした雰囲気を打破するかのように疑問を呈した。


 同じ疑問を抱いたのだろう、レクレナもうなずいている。


「恩赦をちらつかせたか、家族を人質にでもとったか、もしくはその両方だろう。俺が敵の為政者だったらそうする」

 紅毛の上官の思考は冷静であり、彼の見立ては残酷だった。



 部隊再編に兵站線の寸断――ヴァナヘイム軍の著しい変化と新司令官の就任とは、時期を同一とする。


 仇敵きゅうてきであったはずのブレギアをもって、帝国の補給路を分断せしめるだけでは飽き足らず、国内の囚人・失業者を兵員転化する――。


 もまた、あの新司令官の発想なのだろう。


 やはり、自分たちは、とんでもない敵を相手にしているのではなかろうか。



 太陽がじりじりと大地を焦がしていたが、レイス主従は一様に、背筋に冷たいものが走っていた。


 同時に、彼らは口にこそしなかったが、共に過ごした赤髪の少女の可憐な姿を思い出していた。


 おそらく、少女が探していた友人も人質にされ、最初の師たるその父親は銃を取らされているに違いない。


【5-9】少女の冒険 ③ 農務大臣

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 彼女をこの戦場に連れてこなかったことに全員が安堵していた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


政治犯と失業者の兵員転化とは……ミーミルの発想はすごい、と思われた方、

ソルちゃん元気にしているかな……と、思い出された方、

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【予 告】

次回、「転用 上」お楽しみに。

フェイズはヴァナヘイム国へ移り、レイスの推測をなぞるように、物語が進んでいきます。

……とはいえ、最前線に飛ばされた元・先任参謀の推測が敵中したとしても、帝国が後手に回っていることは否めないですね。


「そのようなこと、できるわけがなかろう!」

「そうだッ。冗談も時と場合をわきまえて発言したまえ」


「兵力補充がかなわなければ、我が国は滅びます」

ヴァナヘイム国法務相に内務相は異口同音、唾をとばして激昂げきこうしたが、軍務次官は動じなかった。

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