【4-6】 越年の出兵

【第4章 登場人物】

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【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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 結局、旧ヴァナヘイム領をやくしていたブレギア軍のうち、首都・ダーナに戻ったのは、バンブライ、ブイク、ナトフランタル等、宿老衆だけであった。それも、帝国暦385年11月12日のことである。


 途中のアリアクでは、先月の初めに城塞司令官・ダグダ=ドネガルが、病に勝てず静かに息を引き取っていた。


 その一報に触れた宰相・ラヴァーダが取り乱したように、先代国主を共に支えてきた宿将たちも、彼の死をはじめ受け入れられず、そして大いに嘆き悲しんだ。


 それにしても遅い帰国である。宿老衆は僚友の葬儀にはもちろん間に合わず、墓前で弔意を表すしかなかった。


【4-5】 宰相の帰還

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 先王義弟・ウテカ=ホーンスキン以下 御親類衆は、アリアク城塞へ引き揚げるや首都には立ち寄らず、各々まっすぐに自らの所領へ戻っている。故人となった城塞司令官など、顧みることもない慌ただしさであった。


 地平の果てまで草原が広がるこの国でも、牧畜はもちろん農業とも無縁ではないことは先述のとおりである。


【3-3】 兵農未分離 上

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 特にラヴァーダが富国強兵策を採りはじめた頃から、食糧の自給率は向上し、帝国式食生活が一挙に取り入れられ始めている。


 この度の出兵も、当初予定よりも長期間のものとなっており、麦刈りの時期を越えてしまった。牧場の冬支度にも遅いくらいだ。


 そのため、アリアクでは功臣を弔わず、首都すら素通りしたとしても、ホーンスキンたち一族衆を表立って責める者はいなかった。兵卒たちは平時、麦作や畜産に従事している。農地の労働力を早く故郷に戻してやらねばならないのだ。



 ところが、譜代の将軍たちや御親類衆が帰国した後も、若君・レオン=カーヴァル一行は、首都どころかブレギア領内にすら引き揚げていない。


 旧ヴァナヘイム領から退くように思われたが、そのままリューズニル城塞に入り動かずにいる。もちろん、彼ら直轄の兵卒たちも、そのほとんどが国元に戻されていないという。


 そして、11月13日、レオンとその一行は、降伏したセスル、ルームニル、フォール、クヴァング、ブレイザ等、各城主をリューズニル城塞広間にて引見。各国記者のカメラが閃光を発するなか、彼らは若君たちの前に膝を屈し、忠誠を誓った。


【地図】ヴァナヘイム ブレギア国境 航跡 第2部 第4章

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 レオンとその補佐官等は、降将たちが差し出した兵卒を組み込み、再編を終えるや、11月20日、自らの手勢のみで再び旧ヴァナヘイム領に攻め込んだ。


 自らの手勢とはいえ、国主直轄軍2万に降伏した国境領主勢 数千を加えた一大戦力である。


 迎撃に出た旧ヴァナヘイム軍は文字通り一蹴されている。


 数千単位のブレギア騎兵が真一文字、雄叫びに馬蹄を響かせ突進してくる様は、恐怖でしかない――旧ヴァ兵は散り散りになってしまったようだ。銃火を交わす前に小銃を投げうち、刃を交える前に鞘から抜きもせずに。


 そのままブレギア軍は、未だ帝国に忠誠を誓う周辺の砦や小規模城塞をすり潰した。


 そして、それらの敗残兵が逃げ込んだバルドル城塞を囲んだのが、12月4日のことだった。


 ヴァーガルとニールの二大大河は、バルドルの地で合流する。旧ヴァナヘイム国の流通の要であり、ここを奪われては物流に支障を来たす。


 12月中旬、旧都・ノーアトゥーンでは、帝国軍が再び援軍を動かしている。


 しかし、その後の帝国軍は動きが遅かった。12月23日、援軍の到着を待たずして、バルドル城塞はブレギア軍に降伏した。先のブレイザ城塞の時と同じ展開である。


 ここでも、ブレギア軍はすぐに城塞には入らず、城外はニール河の西側で様子をうかがっている。周辺の村に火を放ったり、陣形をわざと乱すなどして。


 しかし、帝国軍は誘いには乗らず、再びヴァナヘイム旧都へ兵を収めた。



 結局、バルドル城塞の仕置きを終えたレオン一行が、アリアク城塞まで引き揚げてきたのは、年が改まった帝国暦386年1月10日のことであった。


 バルドルを押さえたことで、ブレギア軍はヴァーガル河の水運を利用できるようになった。帰路、スキルヴィルまで短期間での兵馬・物資の大量輸送がかなっている。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レオンの好戦ぶりに食傷気味の方(秋山もです……)、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船が、これ以上推進力を得てしまうと厄介ではありますが、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「凱旋と就位 上」お楽しみに。


金髪の勇者を一目見ようと、遠くトゥメン城塞からも領民たちが多数押し掛けている。


1月26日昼過ぎ、遠く若君一行が視認されるや、首都・ダーナの城門周辺には人垣が作られていった。


そこに収まりきらない者たちは、城外の沿道に群れをなす。彼らは鼻や頬を赤らめ、寒風に吐く息も白く、凱旋軍の花道を形作った。


金髪に赤い軍服姿の若者は、先代譲り濃紺の外套マントをまとう。馬上にて手を振り、歓呼の声に応えるレオンに向けて、新聞各社のフラッシュが雷光のように焚かれる。

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